●ロボットが全ての問題解決をしてくれるという思い込み
谷口 先ほど、いろいろな患者さんがロボットを使いながらリハビリテーションされる状況を見学させていただきました。歩行訓練を見ていると、結構若い人がRewalkを装着して、比較的速く立ち上がったのに驚きました。前回見学させていただいたときは、もう少し年配の方が対象で、立つのにかなり苦労されていた印象がありました。
われわれが抱いているイメージは、ロボットが全ての問題解決をしてくれるのではないかという、どうしてもバラ色の未来になりがちだと思います。しかし、実際に先生のお話をうかがい、現場を見せていただくと、人間がロボットに近づかなければいけないと感じます。そのために専門家の力を借りたトレーニングやリハビリが必要になってくる。
ロボットが社会にこれから普及していく上で、これらは越えるべき課題の1つだろうと考えるのですが、こういった課題については、どうやって解決していけばいいのでしょうか。
村田 難しい問題ですね。
谷口 難しいと思います。
村田 ロボットという言葉が、おっしゃるように「何でもしてくれる」というイメージになってしまっているのも1つの問題かと思います。そう捉えてしまうと、そのロボットが本来何をしてくれるものなのかがぼやけてしまう。そこにわれわれがいろいろなイメージを付けてしまうので、何でもできて、何でもしてくれるのではないかと思いがちなのですが、本来のロボットは、やはり目的があってつくられているものだと思います。ですから、やはりユーザー側もその目的をしっかり把握して使っていくのが重要ではないかと思いますね。
目的がはっきりしていれば、必要な人がその目的に対して手を伸ばすかたちになり、需要と供給のバランスがしっかり取れると思います。ところが今は、何をしてくれるロボットか分からないけれど、「ロボット特区」だからロボットが幅広く出る。われわれがそれに対してどう向き合えばいいのか、非常に結びつけにくい状況なのかもしれないと感じています。
●現実のロボットと「ドラえもん」の違い
村田 何をしてくれるロボットなのかが明確になっても、われわれも当然歩み寄っていくことにはなると思います。でも、実際のロボットというのは、まだ100パーセント、ロボットだけでまかなえるものではありません。どちらかというと、われわれがやりたいことや実現したいことに対して、「ロボットがサポートしてくれる」という位置付けの方が今は正しいのかと感じます。そうすると、自然にその間を結ぶものが見えてくるのではないでしょうか。
谷口 どうしても幼少期に観た「ドラえもん」のようなロボット系アニメの影響が強い。「のび太」になった気分で、何でもやってくれるのではないかと思いがちですが、そうではないということですね。
やはり全部やってくれるのではないかと思ってしまう。問題をわれわれが持ち込んだら、ロボットの方でいろいろな解を出してくれるイメージがあったと思うのです。それで、まずわれわれの方からロボットに近づかなければいけないし、ロボット自体の目的というのも限られているということをうかがったのですが、どうなのでしょう。たとえば手が使えないときには筋電義手を使えばいい。足が使えなくなればRewalkを使う。いずれも非常に部分的なものですよね。
●実はRewalkよりも移動効率のいい「車いす」
村田 障害をお持ちの方が訪れる病院で働いていて強く感じるのは、何か1つの方法で全てをクリアできるわけではないということです。さらに、それが全てハイテクノロジーでクリアされるものでもない。逆に、ハイテクが出てきたことで、しっかりローテクに戻り、そこを見定めることも重要だと思います。
たとえば、歩くためのRewalkというロボットを先ほどご紹介しました。あれを付けることで、歩けない人が歩けるようになるのは、非常にバラ色の現実です。しかし、「あれをつけて毎日歩きますか」と患者さんに問うと、おそらく100パーセント「歩きません」という答えが返ってくる。
なぜかというと、歩けること自体はとてもいいのですが、普段歩かない人にとっては、Rewalkを使うのに非常に体力を使ってしまう。今、普段に使われているのは車いすです。車いすをこげば、かなりのスピードで移動できます。どちらが移動効率がいいかというと、皆さん車いすを選ばれるのです。
Rewalkは、支えがないと歩けない。車いすだと、膝の上に荷物も乗せられるし、後ろにリュックも背負える。車いすの下にネットを置いてたくさんの荷物も置ける。そういう意味で、車いすはロボットではなくローテクではあるけれど、非常に効率がいいものと言えます。そういうところを、ロボットと「てんびん」にかけて、生活のなかで選択す...