●ロボットと人間の近未来像は「バラ色」で描けるか?
谷口 人間とロボットの近未来について神奈川県では動画を発信していますが、先生にもお話をうかがいたいと思います。ソフトバンクのPepper、トヨタのKIROBO miniなど、可愛らしいロボットが出ていて、なじみやすいインターフェースが大事にされているようです。
これは非常に大事なことで、小学校の入口に置いておくと、自閉症の子どもがあいさつをするようになったとか。ロボットが貴重だからといって、柵などを作って入れておくと、なかなか近づけなくなりますし、人間とロボットの距離感は大事なのでしょうね。ロボットが人間の心理状態にどういう影響を及ぼすか、「HRI(Human Robot Interaction)」という分野で研究が進んでいるとも聞いています。
HALを開発された山海嘉之先生(サイバーダイン社)は、「これからはロボットと人が融合した超スマート社会がくる」と言われていました。それは人とテクノロジーの相互作用によって支えられるものであり、「テクノピアサポート」という言葉も出されていたように、やはり「サポート」という言葉がキーワードになるようです。
しかし、人間のロボットに対する理解が不十分だったり、「シンギュラリティ」になるとAIが人間を追い越してコントロールできなくなるといった話も聞くなか、人間とロボットの未来はそう簡単な問題ではないだろうと思います。
少し前に、2015年のアメリカ映画『デッド・シティ2055(原題:Vice)』を観ました。主演のブルース・ウィリスが事業家で、富裕層向けのリゾート都市「Vice」をつくる。そのなかでは自分の欲求のままに人造人間を利用でき、彼ら相手の殺人さえ許されている。その施設内で特権的に振る舞うことを覚えた富裕層は、外の社会でも犯罪を犯すようになる。そこで、Vice閉鎖を目指す動きが始まるというストーリーでした。
これがテクノロジー寄りの話だとしたら、われわれが生きている「資本主義」という経済システムについて、トマ・ピケティというフランスの経済学者が少し前に『21世紀の資本論』を提唱して注目を集めました。「資本主義は格差を引き起こす」ことが大発見で、われわれの信じていた「経済成長によって格差は縮まる」という思い込みがくつがえされてしまいました。
そうだとすると、ロボットやAIなどのテクノロジーを富裕層が独占するようになり、さらに格差増大に拍車をかけることも考えられます。さらにテクノロジーには、ロボットやAIなどの物理的な側面だけでなく、社会や組織、制度といった社会的側面もある。つまり、人と人をつなぐテクノロジーです。この社会的テクノロジーは、物理的テクノロジーと比べると発達が遅い気がします。
●ロボットのあるべき姿は、「助けてくれる」存在?
谷口 こうなると、制度・組織・政策に関わる政府や都道府県、ひいては病院などにも「企業家精神」が求められるようになる。そうでないと、社会問題の解決がなかなか前には進まない。ロボットに対して、われわれは「バラ色の未来」を描きがちですが、制度的側面や資本主義の未来のようなことを考えあわせると、なんとなく大丈夫なのか危ぶむ部分が出てきます。
一方で、AIには「シンギュラリティ」の話もあり、ロボットではアシモフの「ロボット工学3原則」が改めて見直されています。
「ロボットは人間に危害を与えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない」(第1条)
「ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない」(第2条)
「ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない」(第3条)
先生にとって近未来のあるべき姿、ロボットはこうあるべきだということでも、われわれとロボットの関係がこうありたい、でもいいです。そういう方面のご意見をうかがいたいと思います。
村田 こうなってほしいというのは難しいですね。個人的には、「ドラえもん」であってほしいですけどね。ただ、それこそテレビではないですが、「物も使いよう」なところがあると思うので、使う側の考え方が大きく影響するものだろうと思います。ロボット自体がそれを判断できるわけではなく、使う人に左右されてしまうものなのかとは感じます。ただ、それを使うわれわれ自身、まだその判断をするための知識を十分得ていないので非常に難しいです。
今はちょうど開拓の最中なので、いろいろな前例がない状況です。ただ、前例をつくっていこうとするなかで何か事故が起きてしまうと、一気にその分野が閉ざされてしまう。そのあたりは非常にシビアになっているため、新しいものだけに非常に進め方が難し...