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「筋電義手」が日本で普及していない理由

生活支援ロボットと人の共生(3)筋電義手

村田知之
神奈川県総合リハビリテーションセンター 研究部リハビリテーション工学研究室研究員
情報・テキスト
ロボットを活用したリハビリの相談窓口として、かながわリハビリロボットクリニックでは3つのテーマを掲げている。その筆頭である筋電義手は、脳からの命令が発する微弱な電流(筋電)を感知して動く義手である。欧米ではすでに普及している筋電義手が日本で見かけない理由はどこにあるのだろうか。(全9話中第3話)
※インタビュアー:谷口和弘氏(慶応義塾大学商学部教授)
時間:08:07
収録日:2018/12/06
追加日:2019/07/19
タグ:
≪全文≫

●前腕欠損を補う「筋電義手」の処方と訓練


谷口 2017年の4月だと思いますが、かながわリハビリロボットクリニック(KRRC)という、ロボットを活用したリハビリの相談窓口が、こちらの病院に開設されたとうかがっています。その役割は、どういったものでしょうか。

村田 テーマは大きく3つあります。1つは「筋電義手の処方や訓練」。もう1つは「ロボットを活用したリハビリテーション」、最後に「ロボット等の開発における企業や大学への支援」です。これらが今、かながわリハビリロボットクリニックの中でテーマとして挙がっています。

 最初の筋電義手というのは、最近できたものではなくて昔からあるものです。それを処方・訓練していくのですが、筋電義手はそもそも非常に高価なものなのです。

谷口 おいくらぐらいするのですか。

村田 100万円は超える価格ですが、いろいろなパーツに分かれていて、モーターが内蔵されています。たとえば前腕が欠損している方に対して、われわれの手の役割を担っている部分をモーター等で代替させ、「握る、開く、回す」などの機能を持たせたロボットです。これを、実際に生活の場面で使っていきます。


●モノはあっても普及しきれなかった理由


村田 筋電義手は、モノ自体としては早くに開発されました。それがなぜ今回のテーマに入っているのかというと、モノだけがあっても、普及していかないことが実は非常に大きな問題だからです。装着したモノをまず動かせるようにならないといけない。今まで何もなかったところに新たに装着して動かすためには、いろいろ学習してもらう必要があります。

 われわれは、指を握ったり開いたりする動きを意識的・無意識的に行っていますが、指がない状態でその動きを再現するのは大変です。前腕切断の方の場合、これまでは手がない状態で生活するのが当たり前できているので、新たに筋電義手を接続すると、まず両手でいろいろなことをすることから、改めて学習しないといけないわけです。

 ですから、ただ道具だけを渡すのではなく、生活の動作を一緒に構築していくことをしないといけません。また、その上で、本当にそれを使うか、使えるかどうかの判断もしないといけません。

 筋電義手は100万円を超える装置ですが、全てを自費でまかなうわけではなく、公費の補助がきちんと付いています。障害者総合支援法という法律がありますので、認められれば県や国から支給を受けて購入することができます。ただ、欲しい人全員にお金を出すことは国も県もできないので、その必要性の判断が求められてくる。その部分が当院に与えられた使命です。


●筋電義手の在宅トレーニングはなぜ難しいのか


村田 筋電義手を使って生活動作を構築すること、それが使えるかどうかを判断して、最終的にはその人の生活のなかにしっかり落とし込むことが目的になっています。ですから非常に長期にわたる作業になります。

 実際、2017年から始まった制度の下、当院で筋電義手の訓練をされている方が何名かいます。今、ようやく病院での訓練から、一度自宅に持ち帰ってもらい、家や学校でも使ってみようという段階にきています。実際に使えるようになったら、ご自身のものとしてつくって購入しましょう、という流れになりますが、そこまでは至っていないのが現状です。

谷口 そうすると、病院で先生方にいろいろ教えていただいて筋電義手のトレーニングをして、ご自宅で使っていいと言われるまでに、1年以上かかるということでしょうか。

村田 長い人では、かかるかもしれないです。ほとんどの方は働いていたり学校に行っていたりするので、毎日病院に通って訓練することは当然難しくなります。週に1回なり月に1回なりという頻度のなかで構築していくので、やはり時間はかかってしまいます。

谷口 在宅でのトレーニングはやはり難しいものですか。

村田 実際には、ある程度のレベルまでいったら、持ち帰って使っていただきます。ただ、先ほども言ったように、これまで両手で作業しなかったものを両手でするので、最初は専門の作業療法士がしっかりついて行うのがいいと聞いています。それまでのくせがあり、片手でできることはどうしても片手でしてしまうからです。


●スポーツ同様、自己流の通じない福祉用具


村田 われわれが両手で動作するところ、彼らは片手でかわりに行うくせが付いている。その動作を再学習して持ち帰ってもらうことが重要です。そうでないと、せっかく開発された技術が使われなくなってしまうし、本人としてもやはりもったいない。

 時間をかけて練習したものであれば、その人の生活のなかでしっかり使えるものになってほしいと、われわれは望んでいます。そういう意味からも、最初からしっかりトレーニングすることを重要視しています...
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