●海中調査を可能とするさまざまな技術的発展
どうして海中調査ができるようになったのかという点が技術的に重要です。私のこのレクチャーでお話ししているAUVや音響調査技術などがここ20年、格段に進歩して、こういうことができるようになりました。
他の講義を見れば分かりますが、水中で調査をする道具は大きく3つ存在します。一つ目は無人の遠隔操縦機、ROVといわれるもの、二つ目は有人潜水船、これは中国がつくった蛟龍(ジャオロン)という7,000メートル潜れるもので、3人乗りです、三つ目は全自動のケーブルの付いていないAUV、自律型海中ロボット、この3つが深い海の調査で役に立ちます。
例えば先ほどのヨークタウンは5,000メートルです。ビスマルクも4,700メートルと、非常に深い海で作業をします。
こうした場所で潜水艦を見つけるにはいろいろ工夫が必要で、こういった道具を使わないと難しいのです。
●深さに比例して難しくなる海中調査
例えばわれわれは深さ2,000メートルや1,000メートルに位置する海底熱水鉱床などの調査を行っています。普通は船の上からマルチビームソナーというものを出して、海底のでこぼこ、つまり海底の形を調べて、火山の有無や船の有無を調べます。これはどのくらい細かく見えるでしょうか。
陸上であればGoogle Earthなどの衛星写真で、走っている自動車や、歩いている人でさえ見ることができます。しかし、海の中ではそれができないので、このようなソナーを用います。
非常に高性能のソナーだと深さのおおよそ1パーセントの水平分解能があります。つまり、1,000メートルならば10メートルに1個点を取ることができます。言い換えれば、10メートルより小さいものは分かりません。すると、1,000メートルだと10メートルに1個の点ですが、100メートルであれば1メートルに1個の点を取ることができます。
例えば、われわれが調査したユーボート、呂500の長さは80メートルぐらいですから、100メートルの深さで1メートルのレゾリューション(解像度)で分かれば、70メートルで70個の点が取れて、形を捉えることができます。それが浅いところの利点です。浅いところはそのように探せます。
しかし、深いところでは、先ほど述べたように1,000メートルになると10メートルに1点しか取れないので、70メートルの潜水艦では7点しか取ることができません。横幅が10メートルだとすると横幅の方は1点しか取れないので、とてもこれでは形を捉えることはできません。
そこで、自律型の海中ロボットを海底に下ろして、下をスキャンさせます。例えばこのように行います。すると、それに付いているソナーの高度を例えば100メートルにすれば、1メートルに1個点が取れる。つまり、5,000メートルの海底であろうが、3,000メートルの海底であろうが、高度100メートルで探索すれば、1メートルのレゾリューションで海底を見ることができます。それがボブ・バラードや、それからポール・アレンがやっていることで、われわれも同じようなことをやっているわけです。
ポール・アレンが使っている航行型のAUVはREMUS 6000というものです。彼らは深い海をこれで調べています。日本ではこれまでにも紹介してきたr2D4という、このような航行型のロボットがあります。これはインド洋で用いられています。他にも航行型のAUVも用いています。
ROVとしては、これはウッズホール海洋生物学研究所のJASONという遠隔操縦機があります。これでディテールを調べます。日本だと、JAMSTEC(海洋研究開発機構)が持っている遠隔操縦機であるハイパードルフィンが、現場に行って調査します。これで探すのは大変です。これはせいぜい毎秒50センチとか1メートルのスピードでしか海底を目で見ることができませんが、それでは到底広い海の中は探索できません。
●若狭湾での調査で見つかった戦艦たち
われわれは、深い海はお金がかかって到底調査できないので、浅い海に沈んでいる潜水艦をターゲットとしました。呂500は若狭湾で、実際は80メートルの深さに沈んでいたのですが、おおよそ深くても200メートルぐらいまでの深さに沈んでいるだろうと推測されました。実際は80メートルの深さで発見されました。
200メートルであれば2メートルに1個点が取れるので、これならかなり現実的だろうと考えられました。そうして呂500を見つけるプロジェクトをスタートして、2018年6月に見つけることに成功しました。