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佐藤鉄太郎の7割神話が崩れ、大鑑巨砲主義を考えた日本海軍

戦前日本の「未完のファシズム」と現代(7)海軍の役割

片山杜秀
慶應義塾大学法学部教授/音楽評論家
情報・テキスト
佐藤鉄太郎
戦前の海軍は、ペリー来航以来、仮想敵国であったアメリカの出方を見ながら、さまざまな戦略を掲げていた。そこで出てきたのが佐藤鉄太郎の7割神話である。しかし、やがて敵の「7割あれば勝てる」というビジョンが揺らいでくる。そうしたなか、考えられたのは、国家建設と並行して戦争を進めるというビジョンであった。(2020年2月26日開催・日本ビジネス協会JBCインタラクティブセミナー講演「戦前日本の『未完のファシズム』と現代」より9話中7話)
時間:11:23
収録日:2020/02/26
追加日:2020/07/28
≪全文≫

●海軍の仮想敵はアメリカだった


 海軍の場合、さまざまな点で、陸軍に似ています。海軍は、日清戦争日露戦争の時点で、清国・清朝の北洋艦隊やロシアのバルチック艦隊、旅順にいた艦隊等と戦ってきました。基本的には、陸軍が朝鮮半島や中国大陸で戦うことをサポートするのが、海軍の役回りでした。

 ペリー来航以来、アメリカという仮想敵国は太平洋にありましたが、それは日露戦争までは顕在化していませんでした。実際、ペリー来航の後南北戦争が起きてから、アメリカが海軍国で太平洋の覇権を取る国家意思を定めるまで、数十年を要しました。米西戦争ごろから初めて、中国を自分たちの市場にしようとするアメリカの太平洋への野心がはっきりと見えてきたのです。

 そうすると、アメリカの野心は日本とぶつかることになります。日露戦争の後に陸軍は、相変わらずロシアの後継国家であるソビエトを仮想敵国にしていました。それに対して海軍は、アメリカを仮想敵国にします。


●五分五分の戦いをするのは不可能であると悟る


 ところが、工業生産力の問題がここで登場します。いくら海軍がアメリカ海軍と対等の戦力を持とうと思っても、お互いが太平洋をめぐって海で戦うことを想定する限り、両者は生産面で対立することになります。日本が造ったらアメリカはもっと造ろうとするでしょう。日本は経済力や造船能力等でも限界があるので、アメリカ海軍と対等になるために途轍もない苦労をすることになります。国家予算の何割かを海軍に注ぎ込んでも、追いつくかは分かりません。アメリカは日本よりもはるかに豊かで、第一次世界大戦後はすでに世界第一の富国です。海軍にお金を振り向けようと思ったら、日本よりもはるかに余裕があります。日本が造るとすれば、その分何倍も造ることが、簡単にできてしまうわけです。そうなると、アメリカ海軍と建艦競争をやっても、日本海軍は最大の仮想敵国と五分五分の戦力で海軍力を維持することは不可能だと、すぐ悟るわけです。


●相手国の「7割の軍隊があれば勝てる」が佐藤鉄太郎の理屈


 それではどうしたら良いのでしょうか。結論としては、「せめて7割あれば勝てるだろう」と言い出したのです。これは石原莞爾と同郷の佐藤鉄太郎という海軍の軍人が言った言葉です。彼は「7割あれば勝てる」という理屈を展開しました。

 どういうことでしょうか。日露戦争のときに、日本海軍はロシア海軍の7割程度の規模でした。しかし7割でも、ロシアに勝つことができました。だから佐藤は勝てると考えたのです。日本海軍が優秀だったから、7割でも勝てたというわけではありません。ロシアは大国なので、アジア、黒海、地中海、また大西洋に出ていけるように北海と、艦隊をバルチック艦隊、黒海艦隊、旅順にいる艦隊などに分けていたのです。

 つまりロシア帝国は広いので、海軍を分けていました。そのことを考慮すれば、トータルでは日本よりも多くても、それが一度に同じ場所に来るわけではありません。来た分だけであれば、ロシアの全艦隊の7割の規模でも叩くことができました。アメリカ、イギリスに対しても同じだと考えました。これが、佐藤鉄太郎の理屈です。


●7割神話は防衛ラインの複数性から出てきた


 ただ、イギリスはすでに日本の数百パーセントほどの規模の海軍を擁していました。佐藤哲太郎はそのため、日英同盟に従って絶対にイギリスとは戦争をしてはいけないと考えていました。それに対してアメリカ海軍は、大正の時点でこれから規模が拡大していく状況だったので、その7割程度日本も頑張れば、日本も規模を維持できるかもしれないというビジョンを持っていました。アメリカ海軍は太平洋と大西洋に分かれます。だから向こうの方が全体の規模としては大きかったとしても、日本は対米7割であれば勝てると踏みました。戦争がかなり電撃的に始まることを想定した場合でも、大西洋にいるアメリカ艦隊が来る前に、太平洋にいるアメリカ艦隊をやっつけておけば、その後、大西洋にいるアメリカ艦隊をやっつけることができる。これによって7割でも日本が勝つという算段がつきました。

 ただし、これが6割だと危ないと佐藤鉄太郎は説きます。「五・五・三」海軍軍縮条約の時に、6割では絶対ダメで7割じゃないとダメだということを、狂信的なほどに叫ぶ海軍の軍人たちがいました。それに対して統帥権干犯ではないかと大騒ぎになりましたが、この主張は佐藤鉄太郎の7割神話から出てきたのです。

 ところが、パナマ運河ができた結果、大西洋からもすぐ来ることができるため、この「7割なら勝てる」というビジョンも揺らいできます。そこでとにかく建艦競争はやめて、できれば7割を、ダメなら6割でもしょうがないというスタンスを取ることになりました。こうして、ワシントン海軍軍縮会議、ロンドン海...
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