●海軍の仮想敵はアメリカだった
海軍の場合、さまざまな点で、陸軍に似ています。海軍は、日清戦争・日露戦争の時点で、清国・清朝の北洋艦隊やロシアのバルチック艦隊、旅順にいた艦隊等と戦ってきました。基本的には、陸軍が朝鮮半島や中国大陸で戦うことをサポートするのが、海軍の役回りでした。
ペリー来航以来、アメリカという仮想敵国は太平洋にありましたが、それは日露戦争までは顕在化していませんでした。実際、ペリー来航の後南北戦争が起きてから、アメリカが海軍国で太平洋の覇権を取る国家意思を定めるまで、数十年を要しました。米西戦争ごろから初めて、中国を自分たちの市場にしようとするアメリカの太平洋への野心がはっきりと見えてきたのです。
そうすると、アメリカの野心は日本とぶつかることになります。日露戦争の後に陸軍は、相変わらずロシアの後継国家であるソビエトを仮想敵国にしていました。それに対して海軍は、アメリカを仮想敵国にします。
●五分五分の戦いをするのは不可能であると悟る
ところが、工業生産力の問題がここで登場します。いくら海軍がアメリカ海軍と対等の戦力を持とうと思っても、お互いが太平洋をめぐって海で戦うことを想定する限り、両者は生産面で対立することになります。日本が造ったらアメリカはもっと造ろうとするでしょう。日本は経済力や造船能力等でも限界があるので、アメリカ海軍と対等になるために途轍もない苦労をすることになります。国家予算の何割かを海軍に注ぎ込んでも、追いつくかは分かりません。アメリカは日本よりもはるかに豊かで、第一次世界大戦後はすでに世界第一の富国です。海軍にお金を振り向けようと思ったら、日本よりもはるかに余裕があります。日本が造るとすれば、その分何倍も造ることが、簡単にできてしまうわけです。そうなると、アメリカ海軍と建艦競争をやっても、日本海軍は最大の仮想敵国と五分五分の戦力で海軍力を維持することは不可能だと、すぐ悟るわけです。
●相手国の「7割の軍隊があれば勝てる」が佐藤鉄太郎の理屈
それではどうしたら良いのでしょうか。結論としては、「せめて7割あれば勝てるだろう」と言い出したのです。これは石原莞爾と同郷の佐藤鉄太郎という海軍の軍人が言った言葉です。彼は「7割あれば勝てる」という理屈を展開しました。
どういうことでしょうか。日露戦争のと...