戦前日本の「未完のファシズム」と現代
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攘夷思想を強める契機となったのはコレラと天然痘の流行
戦前日本の『未完のファシズム』と現代(4)西洋のイメージと攘夷思想
歴史と社会
片山杜秀(慶應義塾大学法学部教授/音楽評論家)
明治維新の根本には尊王攘夷思想がある。攘夷思想を強める契機となったのは、コレラと天然痘が西洋から入ってきたことである。これによって、西洋人への負のイメージが醸成され、国力を高めていくエネルギーとなっていった。(2020年2月26日開催・日本ビジネス協会JBCインタラクティブセミナー講演「戦前日本の『未完のファシズム』と現代」より9話中4話)
時間:6分29秒
収録日:2020年2月26日
追加日:2020年7月7日
≪全文≫

●明治維新の鍵は尊王攘夷思想にあった


 次に、国力問題についてお話ししたいと思います。

 明治維新後の日本の立ち位置を考えてみましょう。非常に乱暴な言い方をすると、幕末の日本は、後に近代国家の国民をつくることになる様々な階層の人間を、尊王攘夷という思想によって気持ちを一つにし、明治維新を成功させることが試みられました。単純にこう言うと語弊もあるのですが、取りあえずは攘夷思想によって国民を一枚岩にすることが幕末の狙いだったのです。

 奇兵隊や、農民、博徒、商人等、いろいろな立場の人が攘夷のために天皇のもとに集まり、それを阻むものをやっつけるという形で、武士そっちのけで幕末の戦いが始まり、新しい時代が始まっていきました。吉田松陰や高杉晋作、それに続く伊藤博文や山縣有朋たちの考えが、幕末の段階で示されたのです。


●攘夷につながるもとになったのはコレラと天然痘の流行


 攘夷について、ここで一つ付け加えておきます。余計なことかもしれませんが、攘夷というのは、当初から思想によって一枚岩であったというわけはありませんでした。皆さんがマスクをしている今の時代に生きていることを踏まえていうと、当時はコレラと天然痘が非常に大きな役割を果たしたのです。

 コレラと天然痘は、開国して西洋の船が多く入ってくるようになってから日本でも流行りました。コレラはそれ以前からも流行っていましたが、引き金となったのはペリー来航以後の幕末に、アメリカ人やイギリス人が上海経由でやってきて、中国で流行っているコレラを日本に持ち込んだことです。これによってコレラが大流行し、一般の日本人の西洋イメージは、すごく悪くなりました。こうした病気は、西洋人が持ってきているのだというイメージができてしまったのです。


●西洋人に対する悪いイメージが付与され、攘夷のエネルギーに


 もともと西洋のイメージは決して悪くなかったのですが、幕末期になると錦絵等で西洋人が病気を持つ人のように描かれるなど、悪いイメージを付与されるようになりました。鼻が肥大して疱瘡があるような、怖い姿で描かれるようなことが増えました。ペリー来航以前は、そんなことはありませんでした。

 天然痘やコレラは、何度も何度も日本を襲いました。文久、安政、万延の時代もそうです。例えば、「東海道五十三次」の歌川広重が亡くなったのも、コレラが...

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