いま夏目漱石の前期三部作を読む
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
第1話へ
▶ この講義を再生
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
(会員の方に広告は表示されません)
『三四郎』とは真逆!?『それから』の結末とその世界観
いま夏目漱石の前期三部作を読む(6)『それから』の世界観と結末の意味
與那覇潤(評論家)
夏目漱石が『それから』で描く主人公・長井代助と父の価値観の対立は、これこそ現代社会に当てはめて読むと非常に興味深い。裕福な一家を築いた父と兄の成功を、代助は運によるものだと冷ややかに捉える。そして、明治期の教育制度の問題や資本主義の批判など、時代背景には多くの矛盾が渦巻く。最後は三千代との関係で家族と決別して行き場のない人生をたどるが、その結末は『三四郎』とは真逆の姿を描いている。いったいどういうことなのか。今回は代助の心理的葛藤をもとに、『それから』の世界観とその結末の意味について解説する。(全9話中第6話)
時間:12分30秒
収録日:2024年12月2日
追加日:2025年4月6日
≪全文≫

●父親の価値観を象徴する家訓を拒絶する代助


 ところが、こういう感覚はお父さんには通じないのです。まあ、当然といえば、当然ですが。このお父さんは、いわば明治維新の第一世代です。どうももともと仕えていた藩で家老か何かをやっていたらしく、この父の家に行くと、父が座っている頭の上に、「誠者天之道也」(まことはてんのみちなり)という家訓があるのです。誠は新選組のあの誠です。つまり、誠を尽せば、それは天の道であるから、もう誰にでも通じるということです。誠実であれば必ず受け入れられる、ということが家訓として書いて貼ってあるのです。

 なぜこのようなものが貼ってあるかというと、まだ明治維新の前、お父さんが藩に勤めて、家老ないしは勘定奉行のようなことをしていたとき、藩の財政が疲弊してお金が足りなくなってしまいます。このとき、お父さんは、お金を持っている町人のところに行くと、侍なのですがわざと刀をはずして、頭を下げて、「頼む。返せるかどうかは正直分からん。分からんが、しかしわが藩のためだ、頼む」と言って、町人たちを説得してお金を集めます。しかも、藩の財政の立て直しに成功して、お金は返したということでした。

 つまり、そこまで頭を下げれば、町人たちもお金を貸してくれたのです。誠で、誠実さを見せれば誰にでも通じる、そして結果も開けるんだ、ということが、お父さんの成功体験なのです。それが家訓として貼ってあるわけです。これは藩主に感謝されて、このように書いてくれたらしいのです。

 それなのに、長井代助はこの額が甚だ嫌でしょうがないというように、漱石はいうのです。しかし代助は、違うだろう、明らかに運とかがあって成功しているだろう、「俺は誠実だったから成功した、じゃないよね、父さん」と思っているのですが、それはやはりお父さんには通じないのです。

 しかも、代助にとってたちが悪いことに、このお父さんはその後の明治維新の際に、戊辰戦争に従軍したことがあるのです。それで、代助が来ると「誠は天の道」であると延々と説教をして、「おまえは何でいつまでもぶらぶらしているんだ。そろそろこういうふうに生きるということを、おまえも決めたらどうなんだ」例えば「嫁をもらう気はないのか」というように、ずっと説教してくるわけなのです。

 そこで、「誠者天之道也」プラス何をいうかというと、「俺は戦争に行...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
(会員の方に広告は表示されません)
「芸術と文化」でまず見るべき講義シリーズ
数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家
世界は音楽と数学であふれている…歴史が物語る密接な関係
中島さち子
文明語としての日本語の登場(1)古代日本語の復元
「和歌」と「宣命」でたどる奈良時代の日本語とその変遷
釘貫亨
ピアノでたどる西洋音楽史(1)ヴィヴァルディとバッハ
ピアノの歴史は江戸時代に始まった
野本由紀夫
いま夏目漱石の前期三部作を読む(1)夏目漱石を読み直す意味
メンタルが苦しくなったら?…今、夏目漱石を読み直す意味
與那覇潤
バッハで学ぶクラシックの本質(1)リベラルアーツと音楽
中世ヨーロッパの基礎的な学問「7自由学科」の一つが音楽
樋口隆一
なぜ働いていると本が読めなくなるのか問答(1)読書と教養からみた日本の近現代史
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』で追う近現代史
三宅香帆

人気の講義ランキングTOP10
イラン戦争と終末論(3)トランプ・ネタニヤフの終末論的共生
私利私欲で世界を振り回す二人の指導者とイラン戦争の実態
東秀敏
ロシアのハイブリッド戦争と旧ソ連諸国(1)ロシアの勢力圏構想とNATO拡大
「ハイブリッド戦争」の実像…ロシアが考えていることとは何か?
廣瀬陽子
ウェルビーイングを高めるDE&I(1)人と組織を取り巻く環境変化:前編
人材はコストではない!人的資本経営が注目されている背景
青島未佳
昭和の名将・樋口季一郎…ユダヤ人救出編(1)決断と信念のユダヤ人救出
毅然として人道を貫き、命を救う…樋口季一郎のユダヤ人救出
門田隆将
編集部ラジオ2026(13)心の「柔軟性」を高めるヒント
【10minでわかる】心の「柔軟性」を高めるヒント
テンミニッツ・アカデミー編集部
Microsoft Copilot~AIで仕事はどう変わるか(1)「生成AI」の画期性
「生成AI」実装の衝撃…人工知能の歴史と特長
渡辺宣彦
教養としての「ユダヤ人の歴史とユダヤ教」(3)3つの一神教、それぞれの物語
信じる神は同じだが…ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の異同点
鶴見太郎
大統領に告ぐ…硫黄島からの手紙の真実(1)ルーズベルトに与ふる書
奇跡の史実…硫黄島の戦いと「ルーズベルトに与ふる書」
門田隆将
「逆・タイムマシン経営論」で磨く経営センス(3)歴史は最高の教材
歴史はファクトフルであると同時にパストフルである
楠木建
人の行動の「なぜ」を読み解く行動分析学(1)随伴性
三日坊主、部屋が片付かない…なぜできないか行動分析学で考える
島宗理