いま夏目漱石の前期三部作を読む
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『漱石の病跡』――江藤淳が評価した病跡学による漱石論
いま夏目漱石の前期三部作を読む(2)漱石とメンタルヘルスの関係
芸術と文化
與那覇潤(評論家)
英語教師から留学を経て小説家となった夏目漱石。神経衰弱に苦しみながら執筆を続け、新聞の連載で三部作を発表するのだが、その漱石について「病跡学」という観点から精神科医が書いた『漱石の病跡』という本がある。漱石論として江藤淳も評価した本で、今回はこの本についてのエピソードを交えながら、漱石とメンタルヘルスの関係について解説する。(全9話中第2話)
時間:9分06秒
収録日:2024年12月2日
追加日:2025年3月9日
≪全文≫

●お札のイメージで同世代と誤解される2人


 それでは、夏目漱石が具体的にどのような人だったかを、まずざっと振り返ってみたいと思います。私は1979年生まれで、平成の前半に青春を送った世代ということになると思います。この世代からすると、何といっても漱石といえば、1000円札の人であった世代です。

 私はもともと明治維新の研究者をしていたのですが、今振り返っても、漱石が1000円札の時代、1万円札が福沢諭吉だったわけです。次の野口英世が1000円札の時代も、1万円札は福沢のままでした。この1万円札が福沢、1000円札が漱石という時代ですが、調べてみると、1984年ですから昭和の最後の頃で、バブル時代ぐらいから2007年ぐらいまではそのお札が出ていたようです。

 このセットが良くなかったと、個人的に思うことが非常にあります。つまり、どちらもお札だということです。そして、どちらも明治時代に活躍した偉い人だということで、それでお札になっていると思わされ、それが刷り込まれています。それこそお年玉で「やった、1万円札が入っていた」とかです。あるいは中学生ぐらいになると、普通に1000円札で買い物したりするようになります。

 福沢と漱石といえば、どちらも明治時代に活躍した偉人であると、無意識に刷り込まれてしまった世代なのですが、これが非常に良くなかったのではないかと、私は今、振り返って思うことがあります。しかし、この2人は世代的には全然違うのです。ご存じの方にとっては確認ということになるかもしれませんが、福沢は1901年に亡くなっています。一方で、漱石は1905年に最初の小説である『吾輩は猫である』を書いて、これが好評なので、彼は小説を書くほうに行くことになります。

 これを大まかにいいますと、福沢諭吉は日露戦争の少し前に死んだ人であり、夏目漱石は逆に日露戦争の後から活躍を始めた人で、ちょうど行き違った人なのです。

 なので、同じ明治の思想家などと本来は言ってはいけない。時代がはっきり食い違っている人であるわけです。ですから、年齢からしても30歳ぐらい違うのですが、それをあたかもペアになるかのようにお札にして配ったのは、日本人の歴史認識にとってあまりよくなかったのではないかと思います。


●新聞の連載小説で書かれた漱石の三部作


 さて、夏目漱石は、1867年、大政奉還の年に生まれています。まさに江戸時代が終...

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