いま夏目漱石の前期三部作を読む
この講義シリーズは第2話まで
登録不要で無料視聴できます!
第1話へ
▶ この講義を再生
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
(会員の方に広告は表示されません)
偉大なる暗闇とストレイシープ…考えすぎる人の報われなさ
いま夏目漱石の前期三部作を読む(4)『三四郎』で描かれた世間との矛盾
與那覇潤(評論家)
『三四郎』に登場する広田先生は「偉大なる暗闇」として描かれているが、高い知性を持ちながらも社会的評価が得られない知識人の孤高を絶妙に捉えている。そして、この対極として登場する庶民の人妻に三四郎は翻弄され、「ストレイシープ(迷子)」という台詞も出てくるのだが、知性と思索が深まるほどに世間との距離が広がっていく。今回は、こうした『三四郎』という小説の構図から世間との矛盾について迫っていく。(全9話中第4話)
時間:16分08秒
収録日:2024年12月2日
追加日:2025年3月23日
≪全文≫

●並外れた知性を持つ広田先生とは何者か


 というわけで、せっかく今よりもはるかに難しい、絞られたエリート養成機関である東京帝大に入ったにもかかわらず、そこにいる人たちはどうもみんな影があるのです。その典型が、非常に人柄が良くて、三四郎はじめ周りの登場人物たちに慕われている広田先生という人です。みんなが慕っているこの人を、東大教授にしてあげようという運動をするのですけれど、うまくいかないというストーリーになるという話はしましたが、この広田先生が非常に味わい深いキャラとして登場するわけです。

 広田先生は、たまたま三四郎が九州から東京に出ていく列車に乗り合わせたのです。そこでちょっと三四郎と話したこともあったので、東大で会っても、「ああ、君か」という感じになるのです。ここで広田先生の有名なセリフがあります。

 つまり、(『三四郎』は)日露戦争直後の時代を描いているので、日露戦争後の日本が舞台なのですけれど、その列車に乗り合わせたとき、三四郎が「しかしこれからは日本もだんだん発展するでしょう」と言うと、広田先生は「滅びるね」と言ったのです。

 これはただ者ではないということで、最初に三四郎は驚くわけです。「熊本でこんなことを口に出せば、すぐなぐられる。悪くすると国賊取り扱いにされる」ことを、さらっと「滅びるね。日本はもうだめだよ、こんなことでは」と言って登場する、非常に印象深い人物です。

 この「滅びるね」の後、広田先生は「ああそうか、あなたは熊本の第五高等学校から東京帝大に行くのですか」と話すと、次のように言います。「熊本より東京は広い。東京より日本は広い。日本より……」でちょっと言葉を切って、「日本より頭の中のほうが広いでしょう。とらわれちゃだめだ。いくら日本のためを思ったって贔屓(ひいき)の引き倒しになるばかりだ」と。それではいけないと、広田先生は言うわけです。

 この、「日本より頭の中のほうが広い」とは、日本人として日本のことは褒めなくてはならないということではだめだということです。このように、三四郎を諭して登場する、ただならぬ知性の持ち主が広田先生なのです。

 しかし、この広田先生はみんなに愛されて、慕われているのですが、一方で、彼も幸せな人なのかよく分からないし、さらに周りから慕われつつも、揶揄される対象でもあるわけです。

 この広田先...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
(会員の方に広告は表示されません)
「芸術と文化」でまず見るべき講義シリーズ
『太平記』に学ぶ激動期の生き方(1)なぜ今『太平記』を読むべきなのか
『太平記』は乱世における人間の処し方が学べる古典文学
兵藤裕己
クラシックで学ぶ世界史(1)時代を映す音楽とキリスト教
クラシック音楽で世界史がわかる…宗教音楽からクラシックへ
片山杜秀
ショパンの音楽とポーランド(1)ショパンの生涯
ショパン…ピアノのことを知り尽くした作曲家の波乱の人生
江崎昌子
『古今和歌集』仮名序を読む(1)日本文化の原点となった「仮名序」
『古今和歌集』仮名序とは…日本文化の原点にして精華
渡部泰明
なぜ働いていると本が読めなくなるのか問答(1)読書と教養からみた日本の近現代史
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』で追う近現代史
三宅香帆
古関裕而・日本人を応援し続けた大作曲家(1)恩師との出会い
六甲おろし、栄冠は君に輝く、長崎の鐘…古関裕而の魅力
刑部芳則

人気の講義ランキングTOP10
核DNAからさぐる日本のルーツ(1)人類の起源と広がり
核DNAデータで日本人のルーツを探る…アフリカから日本まで来た行程と時期は?
斎藤成也
「満洲」から考える日本とアジア(5)ロシアのシベリア征服と日清日露戦争
「満洲利権」はなぜ日本の手に渡ったか?…ロシアの極東征服、そして朝鮮の混乱が日本を日清・日露戦争へ
宮脇淳子
『オデュッセイア』で読み解く神話の秘密(1)物語の構造を読み解くおもしろさ
『オデュッセイア』の面白さの秘密を神話の構造から読み解く…なぜ波乱万丈の神話が人間の創作の源泉になったか
松村一男
編集部ラジオ2026(33)鎌田東二先生の法華経講義解説-2
【10min名作探訪】大丈夫だよと励ましてくれる『法華経』…鎌田東二先生の講義
テンミニッツ・アカデミー編集部
仏教とキリスト教が照らし出す日本の宗教(1)神とは何か、そして天皇とは?
日本と世界の「神と信仰」の違いは?…そして天皇の大切な役割
橋爪大三郎
アメリカの理念と本質(1)西洋文明の行き着いた先と三つの建国
アメリカの理念と本質とは?…まず「三つの建国」から原点に迫る
中西輝政
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
資本主義の再定義…哲学で考える(1)アダム・スミスの「市場と感情」
資本主義を哲学する…まずアダム・スミスの見えざる手と道徳感情論
中島隆博
モンゴル帝国の世界史(1)日本の世界史教育の大問題
なぜ日本の「世界史」はいびつなのか…東洋史と西洋史の違い
宮脇淳子
「ホメロス叙事詩」を読むために(7)オデュッセウスの冒険
ホメロスの『オデュッセイア』が描く苦難と誘惑の冒険譚
納富信留