いま夏目漱石の前期三部作を読む
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三四郎はストレイシープ!? 漱石が描いた世間との矛盾とは
いま夏目漱石の前期三部作を読む(4)『三四郎』で描かれた世間との矛盾
芸術と文化
與那覇潤(評論家)
『三四郎』に登場する広田先生は「偉大なる暗闇」として描かれているが、高い知性を持ちながらも社会的評価が得られない知識人の孤高を絶妙に捉えている。そして、この対極として登場する庶民の人妻に三四郎は翻弄され、「ストレイシープ(迷子)」という台詞も出てくるのだが、知性と思索が深まるほどに世間との距離が広がっていく。今回は、こうした『三四郎』という小説の構図から世間との矛盾について迫っていく。(全9話中第4話)
時間:16分08秒
収録日:2024年12月2日
追加日:2025年3月23日
≪全文≫

●並外れた知性を持つ広田先生とは何者か


 というわけで、せっかく今よりもはるかに難しい、絞られたエリート養成機関である東京帝大に入ったにもかかわらず、そこにいる人たちはどうもみんな影があるのです。その典型が、非常に人柄が良くて、三四郎はじめ周りの登場人物たちに慕われている広田先生という人です。みんなが慕っているこの人を、東大教授にしてあげようという運動をするのですけれど、うまくいかないというストーリーになるという話はしましたが、この広田先生が非常に味わい深いキャラとして登場するわけです。

 広田先生は、たまたま三四郎が九州から東京に出ていく列車に乗り合わせたのです。そこでちょっと三四郎と話したこともあったので、東大で会っても、「ああ、君か」という感じになるのです。ここで広田先生の有名なセリフがあります。

 つまり、(『三四郎』は)日露戦争直後の時代を描いているので、日露戦争後の日本が舞台なのですけれど、その列車に乗り合わせたとき、三四郎が「しかしこれからは日本もだんだん発展するでしょう」と言うと、広田先生は「滅びるね」と言ったのです。

 これはただ者ではないということで、最初に三四郎は驚くわけです。「熊本でこんなことを口に出せば、すぐなぐられる。悪くすると国賊取り扱いにされる」ことを、さらっと「滅びるね。日本はもうだめだよ、こんなことでは」と言って登場する、非常に印象深い人物です。

 この「滅びるね」の後、広田先生は「ああそうか、あなたは熊本の第五高等学校から東京帝大に行くのですか」と話すと、次のように言います。「熊本より東京は広い。東京より日本は広い。日本より……」でちょっと言葉を切って、「日本より頭の中のほうが広いでしょう。とらわれちゃだめだ。いくら日本のためを思ったって贔屓(ひいき)の引き倒しになるばかりだ」と。それではいけないと、広田先生は言うわけです。

 この、「日本より頭の中のほうが広い」とは、日本人として日本のことは褒めなくてはならないということではだめだということです。このように、三四郎を諭して登場する、ただならぬ知性の持ち主が広田先生なのです。

 しかし、この広田先生はみんなに愛されて、慕われているのですが、一方で、彼も幸せな人なのかよく分からないし、さらに周りから慕われつつも、揶揄される対象でもあるわけです。

 この広田先...

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