いま夏目漱石の前期三部作を読む
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
『三四郎』に色濃く反映する急速な近代化とメンタルヘルス
いま夏目漱石の前期三部作を読む(3)『三四郎』の時代背景と深い陰影
與那覇潤(評論家)
夏目漱石の前期三部作の最初の作品となる『三四郎』は、九州から上京した三四郎の視点を通じて明治末期の知識人の姿を描いている。特に東京帝大の学生たちの姿や、彼らが直面する不条理を鋭く捉え、知的に生きることの困難さを浮き彫りにしていくが、今風にいうと東大生による告白系ユーチューバー(YouTuber)的要素もある小説として読むことができると與那覇氏は語る。今回の講義では、彼ら知的エリート階級の苦悩とはどのようなものか、当時の時代背景とともにそこに深く関係するメンタルヘルスの問題について解説する。(全9話中第3話)
時間:11分58秒
収録日:2024年12月2日
追加日:2025年3月16日
≪全文≫

●前期三部作のスタートを切る『三四郎』の時代背景


 それではまず、(前期)三部作の最初をなす『三四郎』から入っていきたいと思います。

 なぜ、これが(前期)三部作と呼ばれるかというと、1908年、1909年、1910年というように、テンポよく連続して発表されたのと同時に、それぞれ主人公は別の人なのですが、あたかも『三四郎』の主人公が作品としては終わったのだけれど、そのあと生きていたらどうなったか、ひょっとすると『それから』の主人公のようになったのではないかという感じで、別の人の話を書いていても、つなげて読むことができるということから、三部作といわれているのです。

 『三四郎』は、ある意味で東大生小説として今も読まれたり、あるいは青春小説のように読まれたりするわけです。夏目漱石も一時教えておりました熊本の第五高等学校を卒業して、東大に入るのが小川三四郎という男です。大まかにいえば、この三四郎の成長物語となっています。

 まさに地元の九州から東京へと列車で上京していく、その列車の車中から物語が始まる作品であるわけです。この作品のテーマですが、序盤に次のような一節があり、そこが一番分かりやすいところではないかと思います。この三四郎はもともと九州育ちで、東大に入って東京に出てくるわけですけれど、とにかく東京に来て、あまりにもいろんなことが地方と違いすぎることに驚きます。「なんだ、これは」と思うわけです。

 それを作者の漱石(が描いているの)は、三四郎が東京に出てきていろんなことに驚き、不安にもなっているのですけれど、それに対して、けれど三四郎はいまだ「学生生活の裏面に横たわる思想界の活動には毫も気がつかなかった」、つまり小説の冒頭では、まだ表面的に「東京ってすごいな」と思っているだけで、本当の深いところで起きている日本の変化に気づいていないのです。

 それは何かというと、漱石の言葉では「明治の思想は西洋の歴史にあらわれた三百年の活動を四十年で繰り返している」と書いています。つまり、ヨーロッパではゆっくり時間をかけて起きた近代化が、日本ではものすごいスピードで急速に起きていて、そこに地方から東大に受かって東京へ来て、その中に放り込まれた三四郎という青年が何を目撃するのか。こういう形で書かれているのが『三四郎』という小説です。


●自分の頭で考えれば考えるほど苦しく...


スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「芸術と文化」でまず見るべき講義シリーズ
深掘りシェイクスピア~謎の生涯と名作秘話(1)シェイクスピアの謎
シェイクスピアの謎…なぜ田舎者の青年が世界的劇作家に?
河合祥一郎
『源氏物語』を味わう(1)『源氏物語』を読むための基礎知識
源氏物語の基礎知識…人物関係図でみる物語の流れと読み方
林望
岡倉天心『茶の本』と日本文化(1)岡倉天心の生涯
岡倉天心の『茶の本』…世界に向けた日本伝統文化の発信
大久保喬樹
ショパンの音楽とポーランド(1)ショパンの生涯
ショパン…ピアノのことを知り尽くした作曲家の波乱の人生
江崎昌子
クラシックで学ぶ世界史(1)時代を映す音楽とキリスト教
音楽はなぜ時代を映し出すのか?…音楽と人の歴史の関係
片山杜秀
万葉集の秘密~日本文化と中国文化(1)万葉集の歌と中国の影響
『万葉集』はいかなる歌集か…日本のルーツと中国の影響
上野誠

人気の講義ランキングTOP10
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(3)未解決のユダヤ問題
「白人vsユダヤ人」という未解決問題とトランプ政権の行方
東秀敏
徳と仏教の人生論(5)陰陽と東洋思想を知ることの意味
『孟子』に学ぶ、リーダーが過酷な境遇に追い込まれる意味
田口佳史
編集部ラジオ2025(26)ソニー流!多角化経営と人材論
ソニー流「人材の活かし方」「多角化経営の秘密」を学ぶ
テンミニッツ・アカデミー編集部
組織心理学~「不満」を生かす(1)不満・相談・予防
職場への不満は6割以上~ポイントは隠蔽、心理的安全性…
山浦一保
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち
なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る
今井むつみ
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
エンタテインメントビジネスと人的資本経営(6)評価制度設計と「夢」の重要性
なぜ二本立ての評価制度が必要か…多種多様な人材の評価法
水野道訓
認知バイアス~その仕組みと可能性(1)認知バイアス入門
誰もが陥る「認知バイアス」…その例とメカニズム
鈴木宏昭
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(2)国家戦略目標の転換
経済発展から「国家の安全」へ…転換された国家戦略目標
垂秀夫