いま夏目漱石の前期三部作を読む
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
『門』の主人公は神経衰弱…根拠を求める人の不幸とは
いま夏目漱石の前期三部作を読む(7)『門』に込められたメッセージ
與那覇潤(評論家)
『門』は夏目漱石の前期三部作の最後に書かれた小説だが、平成世代には宮崎駿監督の映画『崖の上のポニョ』から興味を抱いた方も少なくないという。『門』は略奪愛の非難から京大を中退した主人公・宗助と御米の夫婦を描いた小説で、その後、宗助は公務員として細々と暮らすが、崖下の家に住む二人は子供に恵まれない。また、知性的であるからこそ物事の根拠を追求してしまう二人は、それによって不幸に陥っていく。今回は、『門』についての講義第1回目として、漱石がこの小説に込めたメッセージについて解説する。(全9話中第7話)
時間:11分28秒
収録日:2024年12月2日
追加日:2025年4月13日
≪全文≫

●『それから』の続きのように描かれる物語


 さて、1909年(発表)の『それから』に続いて書かれたのが、1910年発表の『門』です。これを連載し終わった直後ぐらいに夏目漱石は入院して、さらにその静養先で危篤までいってしまうというくらいの体験をしていくわけです。

 『門』は、これも主人公は違うのですが、『それから』の話が続いたらこうなったかもしれないということです。ちょっと『それから』とは変えているのですが、それに近いストーリーから始まるように作られています。

 『門』の主人公は宗助という人物です。この人は京大生だったのですが、京大在学中に、京大の友だちに奥さんがいたのです。ところが、その在学中に、友だちの奥さんを寝取ってしまうわけです。友だちの奥さんを好きになって、「あなたと別れて、この人と一緒になるわ」というようになってしまったことで、いわば略奪愛をしたわけです。

 略奪愛には成功したものの、周りのみんなから後ろ指をさされて、もう京大を中退せざるを得なくなります。いろいろなところを2人で流れ歩いて、結局、今でいうところの地方公務員的な感じで、どうにか食べているというのです。このような感じの主人公の宗助と、略奪愛された奥さんの御米(およね)という夫婦を主人公にして描いているわけです。

 まさに、略奪愛させてくれ、というように友人に言って、それが親に告げ口されて終わった『それから』のさらに後を書くとしたら、一応違う人を主人公にしますけれど、このような話になるのではないかという形で作られているのが、『門』という小説です。

 (さて)『門』の主人公は宗助(そうすけ)ですけれど、この「そうすけ」というネーミングは、今の若い世代の方には宮崎駿(監督の映画)『崖の上のポニョ』で有名なのだそうです。『門』の宗助と御米の夫婦は、すごく高い崖の下にある、ちょっと暗い感じの家で暮らしているのです。その家の大家は崖の上で、むしろ華やかな暮らし、恵まれた暮らしをしているわけです。ですから、崖がキーワードなのです。

 さらに、この小説のテーマは何であるかというと、この崖の下に住んでいる、崖の下の宗助というのは、父親になれない男なのです。つまり、親友の奥さんを奪って、略奪愛をして結婚はしたのですけれど、子供がいないのです。奥さんが妊娠しても流産してしまったりして、子宝に恵まれな...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「芸術と文化」でまず見るべき講義シリーズ
ルネサンス美術の見方(1)ルネサンス美術とは何か
ルネサンスはどうやって始まった?…美術の時代背景
池上英洋
百人一首の和歌(1)謎の多い『百人一首』
『百人一首』の歌が選ばれた理由とは?今も残る3つの謎
渡部泰明
クラシックで学ぶ世界史(1)時代を映す音楽とキリスト教
音楽はなぜ時代を映し出すのか?…音楽と人の歴史の関係
片山杜秀
おみくじと和歌の歴史(1)おみくじは詩歌を読む
おみくじは「吉凶」だけでなく「和歌や漢詩」を読むのが本当
平野多恵
葛飾北斎と応為~その生涯と作品(1)北斎の画狂人生と名作への進化
葛飾北斎と応為…画狂の親娘はいかに傑作へと進化したか
堀口茉純
日本画を知る~その技法と見方(1)写実・写意・写生
日本画で大切な「写意」「写生」の深い意味とは?
川嶋渉

人気の講義ランキングTOP10
「アメリカの教会」でわかる米国の本質(1)アメリカはそもそも分断社会
「キリスト教は知らない」ではアメリカ市民はつとまらない
橋爪大三郎
豊臣兄弟~秀吉と秀長の実像に迫る(2)秀吉の実像と「太閤神話」
秀吉・秀長の出自は本当は…実像は従来のイメージと大違い
黒田基樹
逆境に対峙する哲学(1)日常性が「破れ」て思考が始まる
逆境にどう対峙するか…西洋哲学×東洋哲学で問う知的ライブ
津崎良典
熟睡できる環境・習慣とは(1)熟睡のための条件と認知行動療法
熟睡のために――自分にあった「理想的睡眠」の見つけ方
西野精治
戦争とディール~米露外交とロシア・ウクライナ戦争の行方
「武器商人」となったアメリカ…ディール至上主義は失敗!?
東秀敏
平和の追求~哲学者たちの構想(6)EU批判とアメリカの現状
理想を具現化した国連やEUへの批判がなぜ高まっているのか
川出良枝
「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス
重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ
三谷宏治
編集部ラジオ2025(32)哲学者たちが考えた平和追求
反EU、反国連の時代に再考!「哲学者たちの平和追求」
テンミニッツ・アカデミー編集部
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
組織心理学とは何か~『武器としての組織心理学』と概論
なぜ組織に「心理学」が必要か?多様化と個の時代の処方箋
山浦一保