いま夏目漱石の前期三部作を読む
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『門』の主人公は神経衰弱…根拠を求める人の不幸とは
いま夏目漱石の前期三部作を読む(7)『門』に込められたメッセージ
與那覇潤(評論家)
『門』は夏目漱石の前期三部作の最後に書かれた小説だが、平成世代には宮崎駿監督の映画『崖の上のポニョ』から興味を抱いた方も少なくないという。『門』は略奪愛の非難から京大を中退した主人公・宗助と御米の夫婦を描いた小説で、その後、宗助は公務員として細々と暮らすが、崖下の家に住む二人は子供に恵まれない。また、知性的であるからこそ物事の根拠を追求してしまう二人は、それによって不幸に陥っていく。今回は、『門』についての講義第1回目として、漱石がこの小説に込めたメッセージについて解説する。(全9話中第7話)
時間:11分28秒
収録日:2024年12月2日
追加日:2025年4月13日
≪全文≫

●『それから』の続きのように描かれる物語


 さて、1909年(発表)の『それから』に続いて書かれたのが、1910年発表の『門』です。これを連載し終わった直後ぐらいに夏目漱石は入院して、さらにその静養先で危篤までいってしまうというくらいの体験をしていくわけです。

 『門』は、これも主人公は違うのですが、『それから』の話が続いたらこうなったかもしれないということです。ちょっと『それから』とは変えているのですが、それに近いストーリーから始まるように作られています。

 『門』の主人公は宗助という人物です。この人は京大生だったのですが、京大在学中に、京大の友だちに奥さんがいたのです。ところが、その在学中に、友だちの奥さんを寝取ってしまうわけです。友だちの奥さんを好きになって、「あなたと別れて、この人と一緒になるわ」というようになってしまったことで、いわば略奪愛をしたわけです。

 略奪愛には成功したものの、周りのみんなから後ろ指をさされて、もう京大を中退せざるを得なくなります。いろいろなところを2人で流れ歩いて、結局、今でいうところの地方公務員的な感じで、どうにか食べているというのです。このような感じの主人公の宗助と、略奪愛された奥さんの御米(およね)という夫婦を主人公にして描いているわけです。

 まさに、略奪愛させてくれ、というように友人に言って、それが親に告げ口されて終わった『それから』のさらに後を書くとしたら、一応違う人を主人公にしますけれど、このような話になるのではないかという形で作られているのが、『門』という小説です。

 (さて)『門』の主人公は宗助(そうすけ)ですけれど、この「そうすけ」というネーミングは、今の若い世代の方には宮崎駿(監督の映画)『崖の上のポニョ』で有名なのだそうです。『門』の宗助と御米の夫婦は、すごく高い崖の下にある、ちょっと暗い感じの家で暮らしているのです。その家の大家は崖の上で、むしろ華やかな暮らし、恵まれた暮らしをしているわけです。ですから、崖がキーワードなのです。

 さらに、この小説のテーマは何であるかというと、この崖の下に住んでいる、崖の下の宗助というのは、父親になれない男なのです。つまり、親友の奥さんを奪って、略奪愛をして結婚はしたのですけれど、子供がいないのです。奥さんが妊娠しても流産してしまったりして、子宝に恵まれな...

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