いま夏目漱石の前期三部作を読む
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
なぜやる気が出ないのか…『それから』の主人公の謎に迫る
いま夏目漱石の前期三部作を読む(5)『それから』の謎と偶然の明治維新
與那覇潤(評論家)
前期三部作の2作目『それから』は、裕福な家に生まれ東大を卒業しながらも無気力に生きる主人公の長井代助を描いたものである。代助は友人の妻である三千代への思いを語るが、それが明かされるのは物語の終盤である。そこが『それから』という小説のミソであり、謎ともいえる点だ。そして、さらに注目すべきはそのことは後づけの理由にすぎず、実際には明治期の成功者たちへの懐疑が彼の精神的な不調の原因となって、内面のうつ的傾向を深めながら進んでいく。(全9話中第5話)
時間:10分32秒
収録日:2024年12月2日
追加日:2025年3月30日
≪全文≫

●現代のニートのような主人公の謎


 では、三部作の真ん中の『それから』です。『それから』の主人公は、長井代助という男です。おそらくこの人は東京帝大を出ているのですが、30歳になっても独身のままで、しかも実家がお金持ちなので、実家頼りでぶらぶらしている人です。

 『それから』は一度、1985年に映画になっておりまして、そちらでは松田優作がこの代助を演じて非常にいい演技をしています。一方で、三千代という人がヒロインで、この人と不倫の恋に落ちると決めるまでを描いているような小説です。こちらは藤谷美和子が演じていて、非常にこちらも好演でした。映画版も非常に優れた作品ゆえに、ある意味、漱石が書いた恋愛小説のように読まれることもあります。

 しかし不思議なのは、結局、この小説は代助という、今風にいうとニート、ただしお金持ちだから暮らしに困っていないニートの主人公は、本当は学生時代、三千代という女性を好きだったのです。好きだったのですが、学生時代の親友にあたる平岡という男も彼女を好きだと言っていたので、「じゃあ、君とくっついたらいいじゃないか」と譲るのです。ところが、譲ったのにやはり諦めきれなくてというように、よく読まれがちなのですけれど、本当にそうかというと、実際に読んでみるとよく分からないのです。

 この小説は、例えば新潮文庫版ですと本文が終わるまで344ページあります。では、主人公の代助が、学生時代に知り合ったときからいつ三千代さんを好きだったんだ、と私が思うかというと、なんと277ページまで思っていないのです。

 それほど後まで思い出さないのかということで、「すみません、学生時代から僕はあなたが好きでした」というふうに普通は言うのですが、本当に好きだったのか、後になってからそう思い出したのか、実はよく分からないのです。これが『それから』という小説のミソではないかと私は思います。

 なぜそう思うかというと、この小説は基本的に代助の主観をなぞる形で進んでいくのですが、代助は、冒頭から明らかにうつっぽい人なのです。冒頭の本文が始まるのが、新潮文庫ですと5ページですが、その5ページから何が描かれているかというと、とにかくまず、目が覚めるところから始まります。

 目が覚めると、この主人公の代助は何をするかというと、寝たまま胸の上に手を当てて、心臓の鼓動を調べ始めるのです。...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「芸術と文化」でまず見るべき講義シリーズ
なぜ働いていると本が読めなくなるのか問答(1)読書と教養からみた日本の近現代史
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』で追う近現代史
三宅香帆
『古今和歌集』仮名序を読む(1)日本文化の原点となった「仮名序」
『古今和歌集』仮名序とは…日本文化の原点にして精華
渡部泰明
クラシックで学ぶ世界史(1)時代を映す音楽とキリスト教
音楽はなぜ時代を映し出すのか?…音楽と人の歴史の関係
片山杜秀
ルネサンス美術の見方(1)ルネサンス美術とは何か
ルネサンスはどうやって始まった?…美術の時代背景
池上英洋
万葉集の秘密~日本文化と中国文化(1)万葉集の歌と中国の影響
『万葉集』はいかなる歌集か…日本のルーツと中国の影響
上野誠
葛飾北斎と応為~その生涯と作品(1)北斎の画狂人生と名作への進化
葛飾北斎と応為…画狂の親娘はいかに傑作へと進化したか
堀口茉純

人気の講義ランキングTOP10
AI時代と人間の再定義(3)Human Co-becomingと存在神学への対抗
耳障りな言葉がポイント!?新しい概念を生み出すチャンス
中島隆博
これからの社会・経済の構造変化(2)経済的利益と社会課題解決の両立へ
利益か社会課題解決か…かつての日本企業の美点を取り戻せ
柳川範之
「進化」への誤解…本当は何か?(9)AI時代の人間と科学の関係
科学は嫌われる!? なぜ「物語」のほうが重要視されるのか
長谷川眞理子
和歌のレトリック~技法と鑑賞(1)枕詞:その1
ぬばたまの、あしひきの……不思議な「枕詞」の意味は?
渡部泰明
豊臣兄弟~秀吉と秀長の実像に迫る(8)秀長の死の影響と秀吉政権の瓦解
「家康対奉行」の構図は真っ赤な嘘!? 秀吉政権瓦解の真相
黒田基樹
平和の追求~哲学者たちの構想(6)EU批判とアメリカの現状
理想を具現化した国連やEUへの批判がなぜ高まっているのか
川出良枝
ポスト国連と憲法9条・安保(1)国連の構造的問題
核保有する国連常任理事国は、むしろ安心して戦争できる
橋爪大三郎
医療から考える国家安全保障上の脅威(5)日本の医療の問題点と提言
なぜ日本の医療はテロに対応できないのか?三つの理由
山口芳裕
逆境に対峙する哲学(1)日常性が「破れ」て思考が始まる
逆境にどう対峙するか…西洋哲学×東洋哲学で問う知的ライブ
津崎良典
第2次トランプ政権の危険性と本質(8)反エリート主義と最悪のシナリオ
最悪のシナリオは?…しかしなぜ日本は報復すべきでないか
柿埜真吾