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東条英機が開戦後に気がついた大日本帝国憲法の欠陥

戦前日本の『未完のファシズム』と現代(3)戦時の機能不全

片山杜秀
慶應義塾大学法学部教授
概要・テキスト
東条英機
明治憲法下で確立した天皇を中心とする分権システムはある程度有効だったが、戦争時のような緊急事態で、ついに機能不全に陥った。東条英機は開戦後に明治憲法の欠陥に気がつき、内閣総理大臣と参謀総長を兼務するようになるのだが…。(2020年2月26日開催・日本ビジネス協会JBCインタラクティブセミナー講演「戦前日本の『未完のファシズム』と現代」より9話中3話)
時間:10:40
収録日:2020/02/26
追加日:2020/06/30
≪全文≫

●大日本帝国の軍隊は文字通り「皇軍」だった


 次に、日本の軍事力についてお話しします。軍事力は現在でも、国の存在感を表します。戦後の日本は少し変わりましたが、陸軍・海軍が重要な時代の中で、大日本帝国の陸軍・海軍は、非常に独立した存在でした。これも明治憲法によって定められていたのですが、統帥権の独立が謳われていたのです。陸軍・海軍は、内閣や議会から全く支配を受けていませんでした。

 現在の自衛隊は、文民統制(シビリアンコントロール)が実践されており、内閣の管理下に置かれています。これは小学校の歴史の授業のようで、そんな初歩的なことは言うなよとご立腹の方もいるかもしれません。しかし、念を押すために一応言っておくと、現在、「党の軍隊」(中国共産党と人民解放軍など)というものも国によってはありますが、大日本帝国の陸軍・海軍は「皇軍」、つまり天皇の軍隊と言われています。これはただのキャッチフレーズではなく、実質的にそうでした。

 つまり、大日本帝国の軍隊は、天皇の名の下に独立した決定を行っていたのです。陸軍は参謀本部の参謀総長が、一応、実際の行動に関する権限を持っていました。正確にいえば、参謀総長が軍隊を全て取り仕切れるわけではなく、分権になっていました。とはいえ基本的には、陸軍参謀本部が存在し、そこで独立した指揮が行われていました。


●海軍は総理大臣らに戦況を報告する義務を持たなかった


 海軍にも海軍軍司令部があり、そこには連合艦隊司令長官がいました。海軍は決戦が求められるため、陸軍のように常に分隊を編成してはいられません。統合的な運用を常に考えておかないと、大艦隊の決戦の際にコンビネーションがうまくいかないのです。そのため、連合艦隊を組織し、一緒に練習が行われていました。連合艦隊司令長官は、海の上にいたため、陸の上の軍令部が何を命令しても、結局その場で決めることが多いという状況でした。そのため、連合艦隊司令長官が最も偉いという神話まで生まれました。

 海軍にはそうした連合艦隊司令長官がおり、海軍軍令部があり、陸軍には参謀総長がいました。参謀総長と軍令部総長の上には内閣総理大臣も誰もおらず、天皇陛下がいるだけです。天皇陛下に対しては、一応正確に報告する義務はあります。しかし内閣総理大臣等に対しては、戦争の時も報告する義務はありません。法律的にも憲法的...
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