戦前日本の「未完のファシズム」と現代
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
第一次世界大戦とそれまでの戦争の違い…日本の試練と焦燥
戦前日本の「未完のファシズム」と現代(5)戦争形態の転換
歴史と社会
片山杜秀(慶應義塾大学法学部教授/音楽評論家)
工業力と科学力に限界を感じ始めた日本の転機になったのは、日露戦争から第一次世界大戦にかけて戦争形態が大きく変化したことである。工業力に加え、経済力も強い国が軍隊の強い国だというのが、新しい常識となった。(2020年2月26日開催・日本ビジネス協会JBCインタラクティブセミナー講演「戦前日本の『未完のファシズム』と現代」より9話中5話)
時間:11分13秒
収録日:2020年2月26日
追加日:2020年7月14日
≪全文≫

●工業力と科学力に限界を感じ始めた


 こうした動きは、日露戦争まででそれなりに一段落つきました。しかしこの時点で既に、日本は限界を感じていました。ペリーの黒船が来航した19世紀後半の時点で、戦争の決め手が工業力と科学力であるということは、すでに日本人にも明らかでしたが、その後の産業文明の速度はますます加速していきました。

 日露戦争の時の二百三高地を思い出して頂ければ良いと思いますが、それまでは大きな大砲と機関銃が何といっても重要でした。しかし、これによって突撃すれば突破できたのが、次第にうまくいかなくなりました。これが、乃木希典のあの苦悩につながっていったのです。

 乃木希典は愚将のようにいわれていますが、もちろん彼もこの点を理解していました。突撃しても犠牲が増えるだけなので、大砲で旅順の要塞を十分に壊してから突撃させようと、一生懸命考えていました。しかし、海軍は、バルチック艦隊が来る前に旅順が落ちないと日本は負けてしまうから、今すぐ占領しろと主張しました。しかも、その時、大砲の弾がないので、突撃させるしかありませんでした。

 そして突撃させた結果、ロシア軍の弾もなくなっていきました。実はこの時、児玉源太郎も来ていましたが、火力の集中はそこまで行われませんでした。しかし、できるだけたくさんの大砲を打とうというイメージも手伝って、ようやく旅順を陥落させることができました。これが日露戦争の経過です。


●日本の戦い方は日本刀による白兵戦が基本だった


 日本はそれまで、いざという時には日本刀による白兵戦に持ち込み、精神力で突撃していくという発想でした。当時は向こうがいくら鉄砲を撃っていても、一度に1発しか撃てない時代でした。撃ちまくれないのです。大砲の命中率もあまり高くなく、自分たちの影響が受ける近くには打てませんでした。そうすると結局、そばまで行けば危険はなくなるので、日本刀や銃剣で戦えば、陸戦でケリがついていました。

 ところが日露戦争の時代になると、機関銃が本格的に登場します。南北戦争の頃から機関銃はあり、戊辰戦争の時にはすでに河井継之助がその簡易版を製造し、それによって長岡藩は官軍を苦しめました。しかし日露戦争はこの頃と比べ物にならないくらい発射する弾の数が増えました。そのため、大砲や機関銃によって戦争が決まってしまうという時代が到来したので...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「歴史と社会」でまず見るべき講義シリーズ
寛政の改革・学問吟味と現代の教育改革(1)学問吟味の導入と正統性の問題
松平定信のもう一つの功績「学問吟味」の画期性に注目
中島隆博
核DNAからさぐる日本のルーツ(1)人類の起源と広がり
人類の祖先たちの「出アフリカ」…その時期はいつ頃?
斎藤成也
概説・縄文時代~その最新常識(1)縄文時代のイメージと新たな発見
高校日本史で学んだ縄文時代のイメージが最新の研究で変化
山田康弘
天下人・織田信長の実像に迫る(1)戦国時代の日本のすがた
近年の研究で変わってきた織田信長の実像
柴裕之
「集権と分権」から考える日本の核心(1)日本の国家モデルと公の概念
日本は集権的か分権的か…地理と歴史が作る人間の性質とは
片山杜秀
『三国志』から見た卑弥呼(1)『魏志倭人伝』の邪馬台国
異民族の記述としては異例な『魏志倭人伝』と邪馬台国
渡邉義浩

人気の講義ランキングTOP10
海底の仕組みと地球のメカニズム(1)海底の生まれるところ
地球上の火山活動の8割を占める「中央海嶺」とは何か
沖野郷子
未来を知るための宇宙開発の歴史(9)宇宙開発を継続するための国際月探査
「国際月探査」とは?アルテミス合意と月探査の意味
川口淳一郎
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
トランプ・ドクトリンと米国第一主義外交(1)リヤド演説とトランプ・ドクトリン
トランプ・ドクトリンの衝撃――民主主義からの大転換へ
東秀敏
「集権と分権」から考える日本の核心(5)島国という地理的条件と高い森林率
各々の地でそれぞれ勝手に…森林率が高い島国・日本の特徴
片山杜秀
ヒトは共同保育~生物学から考える子育て(3)共同保育を現代社会に取り戻す
狩猟採集生活の知恵を生かせ!共同保育実現に向けた動き
長谷川眞理子
第2の人生を明るくする労働市場改革(1)日本の労働市場が抱える問題
シニアの雇用、正規・非正規の格差…日本の労働市場の問題
宮本弘曉
危機のデモクラシー…公共哲学から考える(1)ポピュリズムの台頭と社会の分断化
デモクラシーは大丈夫か…ポピュリズムの「反多元性」問題
齋藤純一
定年後の人生を設計する(1)定年後の不安と「黄金の15年」
不安な定年後を人生の「黄金の15年」に変えるポイント
楠木新
知識創造戦略論~暗黙知から形式知へ(2)イノベーションとプロセスの質
「プロセスの質」こそがイノベーションの結果を決める
遠山亮子