●社会の中で重要なものを見定める
田口 さらに、日本では命というと生命ばかりではなく、例えば「刀は武士の命」という場合のようにものにも命を使います。これは最も大切なことを「命」といっているのです。ですから、命の思想を持って生きている人は、最も大切なものを見落さない。そこが命だと目利きでぱっと見える。
―― 目利きでぱっと見えるわけですね。
田口 見える。その意味で、社会の命はどこにあるのかと考えると、お金がたくさんあるところもその一つかもしれませんが、それ以上に満足できる人生を歩めるかどうかというところにあるのではないでしょうか。
満足できる人生とは、自分の能力を精一杯発揮して、常に生きることです。第4話で指摘したオポチュニティインダストリー(機会産業)が、ここで重要になってきます。命という最も大切なものを生かしていくという精神をもって、オポチュニティインダストリーを全世界に広めていくことが、アフターコロナにおける日本人の務めだと思います。
―― 先生がおっしゃる、天は人に対して豊かに生きることを望んでいる、という言葉ともつながってきますね。
田口 今回新型コロナウイルスに関しては、ワクチンがすぐに製造されて対処できるかもしれませんが、また異なるウイルスや細菌が出てくるかもしれません。これからは、それらと共生していかなければなりません。共生する際には、今指摘したような根本をしっかりと持ち、大切にして生きていく必要があります。その意味では、陰陽は非常に重要です。
●的確に毎日一時一時を生きていく
田口 植木を見て頂ければ分かるように、植木は、時には剪定をして枝を降ろします。その目的は、余計な部分に栄養がいくのを避けて、常に根に栄養が溜まるようにすることです。枝葉の方ばかりに栄養がいくと、根が弱くなってしまうのです。常に根を強くしながら、葉っぱや花や実の方へ栄養がいくようにしています。多くの実が成っても、間引きしていきます。苦労してりんごならりんごの実をつけたのに、取るのは忍びない、落としてしまうのはもったいないといいながら、泣く泣く取るのです。これを「果断」というのです。
―― なるほど。それを果断というのですね。
田口 ものをうまく育てるためには、果断しないといけないのです。
―― なるほど。ものをうまく育てるためには、果断しないといけないのですね。
田口 そこでは、泣く泣く取っていかなければいけないことを教えているわけです。そういう意味では、これからの生き方も、陰陽を根に十分にためていき、適当に枝や葉、それから実の方へ栄養を行き渡らせるように、毎日の暮らしをコントロールしながら生きていくべきです。人間はたなごころの上で転がしながら生きていくことが必要なのです。何も考えずに生きていてはいけません。的確に毎日一時一時を生きていくという生き方が、これからのアフターコロナの中で必要だと教えてくれています。
―― 道元の『正法眼蔵』なども、内容は非常に難しいですが、先生が指摘したようなことが書いてあります。私が好きなのは、「花は愛惜に散り 草は棄嫌におふるのみなり」という一節です。あの感覚ですよね。
田口 そうですね。やはりそのように社会や自然はできています。それは、宇宙の心といっても良いですし、宇宙の仕組みでもあります。だから天の意思なのです。
―― 天の意思なのですね。
田口 それに添って生きていくべきだということを、今回のコロナショックでつくづく思い知らされました。そう思えば、これを機に考え方をガラッと変えると、着実によく見えた形で明日や明後日を迎えられると思います。
―― 先生のように考えていくと、コロナショックによって啓示を与えてもらったという側面もあるかと思います。これからやらなければいけないのは、西洋の英知と東洋の英知とを融合させることなのですね。
●日本を通り越して世界のために生きるという姿勢が日本人的な生き方
田口 ちょうど東洋と西洋は対比的にできているわけです。西洋はどちらかというと短期を重視します。医学でも短期的に、緊急に治さないといけない場合は、西洋医学に分があります。その意味では、西洋医学というものもあってよかったと思います。対して、長期的に根本から治していく際には、東洋医学は大きな力を持っています。したがって、東洋医学と西洋医学の融合によってより良い医学が生まれるのです。全ての領域において、東洋と西洋の融合が望まれている時代なのです。
―― 先生のように、これまで続けてこられた身体知なるものを解説してくれる方が出てこなければ、この部分にはなかなか気づくことができませんよね。日本人は平成30年間で、転げるように落ちてきて、自信を失っていきました。正しく反省すれば良いのですが...