●経済成長と東洋思想は噛み合わない
田口 私もこれまで同様に学んできたのですが、真っ先に私の頭に入ってきたのは、私が前から指摘している次のようなことです。よく私に向けられる質問として、「東洋思想では経済成長をどのように扱っているのか」というものがあります。私はこの質問に対して躊躇することなく、「ぞっとする」と答えます。経済成長と聞いただけで「ぞっとする」ということです。
それはどうしてか。この世は陰と陽からできていて、陰陽が合わせて初めて全てがうまくいくわけです。陽のみ、もしくは陰のみという状態は、一本歯の下駄のようなもので非常に不安定なのです。そうすると、何かの拍子に転んでしまいます。
―― 先生がいつも説明している八卦図はよくできていますね。
はい。テンミニッツTVでもすでにお話ししてきましたが、西洋近代思想は二元論なので、ある選択肢を与えられたときには、一つの選択肢だけを選択してきました。今回突きつけられた課題は、経済成長とどう向き合うのかという、東洋思想に向けられてきた代表的な質問と同じです。これまでは陽の側面である成長や発展をとにかく追求してきました。そのツケがいよいよ回ってきたと考えたほうが良いと、天はわれわれに教えてくれているのではないか、とまず思いました。
●経済成長は心の満足とバランスを取る必要がある
―― 先生がおっしゃる通り、これまで成長・発展中心に進んできました。それがリアルの世界の行き詰ると、金融緩和に着手します。それも行き詰まれば、今度は財政出動に着手し、あげくにはヘリコプターマネーをばら撒くという過程で経済政策が取られてきました。しかし、その先に解決策はあり得ないですね。
田口 あり得ません。そのときには絶対に「陰」を考えるべきです。成長・拡大(発展)は「陽」ですが、「陰」とは充実・革新なのです。もう一息充実させて、自分の新生命を強化することです。もう一つはイノベーションです。この世は限りなく停滞がなく、刻々と展開しています。この意味で、停滞は全く世の流れに即していないのです。逆に積極的に変わっていかなければならないのです。
―― 変わり続けているということですね。
田口 変わり続けています。充実・革新とは、世の中にいける人間の暮らしの安定、そして安心、つまり安泰な暮らしの追求からくる精神性や心の満足を指します。ですから、金銭を増やしていくことではなく、金銭はそこそこに、心の豊かさや心の満足の部分も重視する必要があるのです。これからは、金銭・物質の満足感50パーセントと心の満足感50パーセントという調和を取っていかなければいけませんよ、ということです。
―― そのバランスがあまりにも崩れたのですね。
田口 その通りです。100パーセント金銭や物質の成長・発展を追求しすぎたことで現れた弊害への対処が、今問われているということが一つです。
●企業経営者に求められる考え方の見直しと改革
田口 それからもう一つは、企業経営者の「考え方の改革」です。彼らの大部分は、必ず昨年対比で何パーセントの増減という数字の動きに着目しています。株主が納得するのは増収ということになると思うのですが、経営計画と同じレベルの熱意で社員の充実革新計画にも取り組んで、初めてバランスが取れるという考え方も大事です。
―― ご指摘の転換点である2000年前後から、株主資本主義・金融資本主義の考え方が入ってきました。お話にあるように、会社の内部が充実すると良い製品を作れるようになり、お客様も喜ぶ。そして結果的に株主も利益が増える。こういった順序が、この十数年間で壊れてしまったのですね。
まず、リーマン・ショックでこうした状況への警告を与えられたのですが、その時はFRB(連邦準備制度)や日本銀行が急速にお金を注入してしまったので、一年も経たないうちにもとに戻ってしまいました。日本では、その次に2011年3月11日に東日本大震災が起こり、福島では原発事故が発生しました。これも天の啓示のようなものだったと思いますが、ごく一部の地域の話のように矮小化され、実態が見過ごされるなど、これまでの対応とほとんど変わらなかったように感じます。
●国民の心の満足とはいったい何かということが大問題
―― そして今回のコロナウィルス禍ですが、先生が最初に指摘したように、日本だけではなく世界中で、全員平等に命の危険に晒されました。まさに「天意」ですね。どこが間違っていたのか、と振り返らなければ、ますますおかしな方向に向かってしまいます。今回、先生に伺いたかったのはその点です。経済学者や公衆衛生学者は、「ワクチンができれば」「経済は今一番底で、二番底で」などと言っていますが、その延長線上に解答はないのではないか、むしろ人間の新しい生き方や思想を...