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バイデン政権は今後、民主主義のレジリエンスを示せるのか

バイデンの政治とアメリカの民主主義(4)民主主義の灯台になれるのか

小原雅博
東京大学名誉教授
情報・テキスト
新型コロナウイルスの感染者数・死者数ともに世界一を記録しているアメリカだが、経済回復に向けて、バイデン政権の手腕が問われている。これから、人種差別問題や所得格差、政治的分断を乗り越え、失われつつあるアメリカ民主主義への信頼を取り戻せるのか。バイデン政権についての深掘り編講義・最終の第3話。(全4話中第4話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:08:44
収録日:2021/07/07
追加日:2021/10/12
カテゴリー:
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≪全文≫

●コロナ後の経済をどう回復させるか


―― (アメリカの予算が)6兆ドルというのは、今の日本の政府ではなかなか思いつかない金額です。中国も国家予算をガンガン投じて、経済政策をやっていきます。アメリカもそのように振ってきた場合に、アメリカと中国に挟まれた日本がどうするかは結構難しい問題になります。

小原 赤字国債を含めて、日銀も相当お金を刷っています。コロナが収束した後に、おそらく多くの国でこの債務の問題が残り、尾を引くだろうと思います。それが経済危機につながらなければ良いのですが、国家が投資をしたからといって、経済的なインパクトがそれなりのものになる時代ではありません。そのため、借金だけ残してしまうような無駄な投資が行われると、後世にツケを残すだけになってしまいます。非常に難しい状況になってきています。

 そういう意味で、全体的に今の権威主義民主主義に対して勢いを増しているのは、民主主義資本主義というパッケージが機能しなくなっているということです。フランシス・フクヤマがまさに冷戦終結の前に予想したように、もう人類の進歩は終わって、このシステムが一番良いと言っていたのが、そのパッケージがどうもうまく機能しなくなってきています。

 中国のような共産党一党支配の経済成長――もちろんこれは落ちてきてはいますが、西側先進国に比べればまだまだ高いのです。――がこれだけ続くと、遅れた途上国で、本当に良いのはどちらのモデルかという話にもなりかねません。そういう意味でも、やはりアメリカを中心に、どう経済をうまく回復していくのかが重要です。

 今はすごく調子が良いので、2021年7月4日の独立記念日の時にバイデン大統領は、そこは誇っていました。バイデン演説では、「世界一の」とも言っていますが、記録的な雇用増と経済成長をしていて、「2020年の暗い1年から明るい1年になる」と言っています。これが本当に長続きするのかどうかです。

 そして、中産階級が経済を支える本当に強い中核になってくれるのかが、最終的には民主主義を勢いづけるポイントになります。これからの1、2年は、バイデン氏にとってはかなり勝負どころだと思います。


●これまでのダブルスタンダードはもう通用しない


―― バイデン氏は権威主義との戦いにおいて、先ほど(第1話で)先生がおっしゃったように、「世界を照らす民主主義の灯台になるのだ」と言って、その価値を訴えています。アメリカは理念を唱えていますが、中国は中国で理念がらみの国なので、「核心的利益」と言って、絶対に譲りません。

 理念と理念がぶつかった場合、なかなかディールできる話ではなくなってくると思います。その部分を、アメリカはどう動いていくのでしょうか。

小原 これはまさに今言われたように、理念対理念というか、理念と核心利益の衝突という部分があります。例えば香港の問題でいえば、中国からすれば、これはまさに主権の問題であり、核心利益です。一国二制といいますが、この二制は一国という主権の下で認められるので、勝手なことをして良いわけではありません。「独立」と言い出していますが、これは一国を完全に否定しており、こうした一国二制は間違った一国二制となります。

 ところが、アメリカの理念からすれば、そこには自由や民主主義という価値があります。アメリカとしては、そういった人びとの気持ちはやはり守っていかないといけません。ここで本当にぶつかってしまいます。

 先ほども言ったように、ぶつかってしまうと、なかなか難しいです。ダブルスタンダードになってはいけません。

 これまでダブルスタンダードは大国と小国との間でよく使い分けているところがありました。小国にはかなり厳しくいえるが、大国には何もいえないというものです。

 私のいうダブルスタンダードはそうではなく、国内と国外でのダブルスタンダードです。やはりアメリカがしっかり中国に言っていくためには、アメリカ自身が民主主義をきちんと健全なものにしていかないといけないと思います。


●民主主義のレジリエンスを示していく必要がある


小原 ところが、“Black Lives Matter”という問題がまさに起こっています。中国からすれば、「これは何だ」「あれが民主主義か」「国民の皆さん、見てください」となってしまいます。

 やはりバイデン氏が言ったように、「建国の理想」には理想と同時に若干嘘もあったのだと思います。つまり、みんな平等だと言いつつ、その平等の中には奴隷として連れてこられた黒人は入っていなかったのではないかということです。

 これに対して、マーチン・ルーサー・キングなど、いろいろな人の尽力でだんだんと社会を変えてい...
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