●バイデン大統領の経歴
皆さん、こんにちは。東京大学名誉教授の小原雅博です。今日はジョー・バイデン大統領についてお話したいと思います。
バイデン大統領の略歴を上に少し書きました。ひと言でいうと、大変豊富な政治経験を持った政治家です。上院議員を36年務めています。ここに書いてあるように、29歳で当選し、それ以来、議会の中ではジョン・マケインや、ミッチ・マコーネルといった共和党の重鎮とも非常に深い関係を持っています。ある意味で今の議会は、共和党と民主党の対立が非常に厳しいですが、その中で橋を架けられる政治家の1人だということです。
特に外交面では、上院の外交委員長をやったり、オバマ政権時代にも、外交分野で米ソの核軍縮に関わったりするなど、いろいろなことをやってきました。そうした彼の立場は一貫して中道です。共和党が保守化し、民主党の中ではバーニー・サンダース議員のようにリベラルの急進化が進む中にあって、やはりこの中道を支えています。こうした彼の特徴を頭に入れておく必要があると思います。
その粘り強さには、これまでの彼の公私にわたるいろいろな大きいセットバック、不幸があったことも関連しています。例えば、交通事故で最初の夫人を亡くしています。その時に1歳半の娘さんも亡くしています。息子2人は重体で、病院に入った息子を見舞うために、彼は上院議員の時に毎日、デラウェアとワシントンを往復しました。そうした彼の人柄は、彼の政治において非常に大きなポイントだと思います。
しかしながら、彼の場合は史上最高齢の大統領なので、この大統領の任期1期を終えると82歳になります。例えばロナルド・レーガン元大統領は77歳でしたが、最終的には認知症も含めていろいろな問題がありました。アメリカの軍の最高司令官でもある大統領が、これだけ高齢になっていくので、健康の問題が非常に心配されます。
この後どうなるのかということですが、ドナルド・トランプ前大統領がまた次に出てくることも噂されていて、彼自身がそうした動きをしています。もし副大統領のカマラ・ハリスがなれば、初の女性大統領としてもちろんその後4年間続きます。この4年後にどうなっていくのかは、彼の政策がどこまで続いていくかとも関係します。
●バイデン氏が目指す政治
私はそのバイデン大統領の政治の中枢を3つに分けて整理しました。1つは「アメリカの魂を懸けた戦い」です。
アメリカの魂とは一体何なのかというと、これはもう皆さんご承知のように、「民主主義」です。アメリカ独立記念日である7月4日の演説の中にも出てきます。これは理念の力であり、そこに民主主義が出てきます。
例えばホワイトハウスの彼のホームページの中にも出てきていますが、2019年に彼は、”America is an idea“ということを言っています。アメリカは理念の国であり、建国の理想があって、それは世界を照らす民主主義の灯台になるのだということです。やはり今の民主主義がトランプの4年間で後退してしまったので、何とかしてここを刷新して、取り戻さないといけないという気持ちが非常に強いと思います。
そういう意味でいうと、これはアメリカの魂を懸けた戦いです。そのためにはやはり民主主義の中核であり、民主主義を支えてきている中産階級をどうしても再建しないといけません。
実はグローバル化の中で、アメリカの巨大な製造業などが中国を中心に新興国に移っていってしまいました。これによって、まさにアメリカの自動車産業など、アメリカが強かった製造業が衰えていっています。これはトランプ大統領が誕生した背景でもあり、それが起こっているのが、いわゆるラストベルト地帯です。こうした中で、なんとか中産階級を再建しないといけません。
そのために、彼は史上最大規模の予算を組んで、議会を通そうとしています。厳しい見方をする人からすれば、彼はケインジアンです。つまり、大きな政府を目指しているので、これまで小さな政府を支持してきた共和党とは議会での合意がなかなか難しいのです。今の議会では民主党と共和党の対立が非常に厳しくなっています。そうした中で、インフラについてはトランプ前大統領もやろうとしていた話なので、この間、予算もまとまりました。
しかしそれ以上に、まさにソーシャル・セーフティネットといわれる教育や、中産階級を支えるいろいろな投資や予算などについては、議会でのなかなか難しいプロセスが続いています。
例えば、雇用の創出がそうです。実は民間セクターがこうした問題を解決できていないということで、政...