●上下両院の「ねじれ」は、想定の範囲内
2018年11月のアメリカ中間選挙の結果をどう評価するかという話をします。
まず、この選挙結果は非常に評価が難しいということです。上下両院がねじれていると同じように、上院と下院の結果が違うので異なる評価が出てきています。また、選挙直後と現時点との間では、少し評価が変化しています。それからやはり、この中間選挙だけを見るのではなく、アメリカ政治の長期のトレンドで何が変わったのか、何が変わらなかったのか、そして今後どうなるのかという問題を議論しなければいけません。
評価が難しい理由の一つは、上院と下院の結果が異なったことです。
上院は共和党が過半数を占めました。
下院は民主党が票を伸ばして半数以上の議席を取りました。今まで上下両院ともに共和党が多数を持っていたわけですから、それが変わったということです。
しかしながら、アメリカの中間選挙が、そもそもこれまでどのように票が動いていたのかといえば、政権を取った党、つまり大統領側が議席を減らすというのが一般的な傾向です。そういう意味では、中間選挙で議席を減らすのは何もドナルド・トランプ氏だけではありません。こうした経験則の話はいくつもあります。例えば、イギリスの場合、総選挙の間に行われる地方選挙では政権党が議席を減らします。日本の場合、統一地方選挙と参議院選挙があるときには、参議院選挙の方の投票率が減ってしまいます。こうした経験則はいくつかあるわけで、その通りに動くとは限りませんけれども、今回のアメリカの中間選挙は、下院で議席を減らしたからといって、そう驚くことではありません。
民主党の青いビッグウェーブが全体を席巻して上院まで及んだかというと、そうではありません。共和党が多数を占めた上院の結果が全体に及んでいるかというと、そうでもありません。この他、知事選挙その他の選挙を勘案すると、民主党も次の大統領選挙までの手がかり・足がかりがそこそこついたのではないか、という状況です。
●投票傾向が読みやすいアメリカ政治
アメリカの政治や選挙を分析するときに、いろいろな手法があります。例えば、地域特性から見ていくことができます。
ラストベルト(米国中西部から北東部にあたるかつての工業地帯。オハイオ州、ミシガン州、ウィスコンシン州など)に当たる地域の場合、それは産業構造問題なのか、あるいは地域でそういう特徴があるのか。
また、例えば、アメリカの南部にしても、もともとは保守系が非常に強い地域で共和党が強かったのですが、実は国境に近いところはそうでもなくなりつつあります。例えば、ヒスパニックが多くなってくると、民主党の方が少し議席を増やすということが起こります。とはいうものの、日本と大きく違うところは、人種、宗教、学歴、所得といった、いわゆる社会属性を押さえるとだいたい投票傾向が読めるというのがアメリカ政治です。
民主党はアイデンティティ政治だとよくいわれますが、今回も、女性やLGBTなど特定のアイデンティティを強調する女性候補などが当選しました。逆に共和党は、トランプが経済を強調しなかったのが一つの特徴ですが、移民問題、特にホンジュラスなどからの大量の移民がアメリカに向かって行進してきたことを争点としてうまく使い、不法移民を食い止める、軍隊も使うということで選挙にプラスに使いました。あるいは、ブレット・カバノー判事の指名においても、高校生時代に性犯罪を行ったという過去を民主党が訴えると、逆にそれをうまく使って「そこまでやるか」「これはやりすぎじゃないか」という論調で保守系の票を固めるという、その場その場の選挙の特徴がありました。今回はそういう直前の動きがあったわけです。
ただ、全体を眺めてみると、今までの分極化の傾向は今後も続くかと思われます。明らかにその傾向は食い止まっていません。分極化はますます進むでしょう。そう考えると、この選挙の後を読むときの一つの評価として、アメリカ政治は、今まで以上に分極化が続くでしょうし、特にトランプ政治がこのまま続くとなると、それはなおさら続くということがいえます。
下院の票を積み重ねると次の大統領選挙の予測ができます。それでいくと民主党は勝てるのかというと、実は下院と大統領では選挙の形態が違うため、そう簡単に予測はできません。けれども、民主党は次の候補者次第で手がかりはつかめたということになると思います。
●弾劾訴追は起きるのか~共和党の罷免賛成は考えにくい~
次の問題として、これで上下両院がねじれます。アメリカ政治ではしばしばいわれる「ディバイデッド・ガバメント...