●苦労を重ねながら、逆境を乗り越えてきたたくましさ
―― 皆さま、こんにちは。本日は小原雅博先生に、バイデン政権について深掘りした講義をいただきたいと思います。小原先生、どうぞよろしくお願いいたします。
小原 よろしくお願いします。
―― まずジョー・バイデン大統領の経歴から教えていただきたいと思います。アメリカの大統領というと、いろいろな経歴を持っている方が次々となられています。バイデン氏における特徴的な部分はどういうところでしょうか。
小原 彼の場合には、やはり公私にわたっていろいろな浮き沈みがあったことが、彼の人格、とりわけ良い面である、粘り強さを形作ったと思います。
これは本当に悲劇ですが、彼が29歳だった1972年に確か史上5番目ぐらいの若さで、上院議員に当選します。しかし、その直後のクリスマス前に、クリスマスツリーを買いに行っていた奥様と子どもたち3人が乗っていた乗用車がトレーラーと衝突して、交通事故に巻き込まれます。それで奥様と1歳半のお嬢様が亡くなり、息子たちは病院に運ばれます。この落差、このショックはすごく大きかったと思います。
それまでも、彼のご両親はブルーカラーで、中古車のセールスをしたりして一生懸命働いた勤勉な労働者階級でしたが、やはり彼自身も苦労しました。そして彼が最も苦労したのは吃音です。子どもの頃はあだ名で「バイバイ」と言われました。なぜかというと「バイデン」というのがなかなか言えなくて、からかわれたからです。「バイバイ」って言われたと言います。要するに、そうした逆境を乗り越えてきた逞しさや、粘り強さを持っている方です。
そうして、結局36年、上院議員を務めました。今は共和党と民主党の対立が非常に激しいといわれますが、その中で彼自身は共和党との話し合いをして、合意を作り出していくことを本当に地道にやった人です。やはりジョン・マケイン氏や、ミッチ・マコーネル氏という共和党の重鎮はそこをよく分かっていて、彼を非常に高く評価していて、関係も非常に良いのです。彼の息子さんは、最終的には2015年に脳のがん(脳腫瘍)で亡くなります。同じ病気でマケイン氏も亡くなるのですが、その間にいろいろな友情がありました。
だから、そういったある意味で幅広い信頼と支持を、長い議員生活と議員経験の中で培ってきた人です。
●史上最高齢の米大統領につきまとう政策の継続性への懸念
小原 そういう意味では、一貫して中道路線です。しかし、中道路線はアメリカで非常に難しくなっています。政治が両極端化して、「トランプ共和党」ともいわれる共和党が保守化し、民主党はサンダース議員のように大変急進化しているからです。こうした間に立って、中道勢力がシュリンクしています。まさに民主主義の根幹である中産階級自身も衰えていっています。この中で彼の存在はある意味で非常に大きく、大事になっています。
やはりそうしたものを彼がもう一度刷新して、強めるのだという気持ちがあります。まさに彼が最初に取り組むべきは国内です。国内の分断をなるべく和らげて、結束して、経済を強め、中産階級を復活させます。これによって民主主義をまた強くしていき、世界に輝く灯台になるのだということです。
問題は、これだけ大変な大統領という仕事を4年間でどこまでできるかということです。本来、これだけの人であれば、8年間やって良いのです。ところが問題なのは、彼は史上最高齢の大統領なので、4年が終わると82歳で、その後どうなるかということです。82歳になるまでの間も大丈夫なのか分かりません。ロナルド・レーガン大統領が辞めたのが77歳です。レーガン大統領もアルツハイマーを含め、最後は本当に健康問題がありました。
そうなってくると、彼のやっている戦略や政策の継続性に対する懸念が出てきます。例えばドナルド・トランプ大統領がまた戻ってくるという話になると、また揺れ戻しが起こります。日本を含めて同盟国も、一体どうなるのかという不安があります。もちろん、今は良い流れで行っているので、このまま続いてほしいと思いますが、悲観的になって、先を読みすぎてしまうと、その部分が少し気にかかります。
●トランプ政権・負の遺産、増幅した社会の分断は回復できるのか
―― どちらかというとトランプ氏の場合、自分は既存の権力の外にいることをずいぶんとアピールして、既存の権力ではないということ、のし上がってきて、それを説得的に使ってきたと思います。
今のご経歴などを見ていると、バイデン氏の場合は、やはりずっとプロフェッショナルとして中にいて、共和党ないし民主党のいろいろな人といろいろな関係を作りながらやってきました。その違いは明確にあると思います。日本からす...