若狭湾海中調査と潜水艦曼荼羅
この講義は登録不要無料視聴できます!
▶ 無料視聴する
次の動画も登録不要で無料視聴できます!
技術的発展でさまざまな困難を克服した海中調査
第2話へ進む
戦争や災害の記憶を海中調査で後世に伝える
若狭湾海中調査と潜水艦曼荼羅(1)歴史と調査の意義
浦環(東京大学名誉教授/株式会社ディープ・リッジ・テク代表取締役)
2018年6月に浦環氏のチームは、若狭湾でユーボートと呼ばれた潜水艦を含む3艦を発見した。ユーボートは戦争中にどのような役割を果たしたのか。そのユーボートの残骸を発見することにどのような意味があるのか。調査の詳細な解説の前に、浦氏が歴史と調査の意義について解説する。(全10話中第1話)
時間:11分04秒
収録日:2019年3月14日
追加日:2020年2月10日
≪全文≫

●二回の世界大戦とユーボートの歴史


 今回は、2018年の6月に行った若狭湾に沈むユーボートの調査のお話と、ユーボートにまつわるさまざまな技術的なお話をしたいと思います。

 われわれのターゲットは呂500という名前の潜水艦になった、ユーボートのU-511という潜水艦です。この潜水艦は若狭湾に沈んでいます。前回の伊58と同じように、戦争中には破壊されませんでした。戦後、1946年4月に若狭湾で3艦の日本海軍の潜水艦が海没処分されましたが、そのうちの1艦が呂500、ユーボートU-511です。処分された場所は分かっていませんでしたが、われわれがそれを探し出したというわけです。

 「ユーボート」という言葉はドイツ語です。ドイツの潜水艦を世界的に一般にはユーボートといいますが、ドイツ語では「Unterseeboot(ウンターゼーボート)」といい、「潜ることのできるボート、軍艦、水の下の船」という意味です。一般名詞なので、ドイツ語ではユーボートという言葉はいわゆる潜水艦を指していますが、ドイツ以外でユーボートといえばドイツの潜水艦を指します。

 ユーボートがつくられたのは第一次世界大戦中で、ドイツはユーボートによって非常に大きな戦果を挙げました。第一次世界大戦中に300隻が建造されて、撃沈した船は5,300隻にも上ります。これによって、イギリスは窮地に陥りました。その後、第二次世界大戦中にはユーボートは1,100隻つくられて、商船3,000隻、空母2隻、戦艦2隻を撃沈しています。華々しい成果を挙げているわけですね。

 第一次世界大戦中に、ユーボートは一体何をしていたのでしょうか。イギリスとドイツが戦っていたのですが、イギリスは日本と同じように島国なので、戦争を維持するためには補給をする必要があります。例えばオーストラリアや、アフリカ、アメリカから物資が送られてきますが、その補給線を破壊していたのです。これを通商破壊といいます。簡単にいえば、兵糧攻めです。

 第一次世界大戦が始まった時に、兵糧攻めの道具としてユーボートは非常に大きな成果を挙げました。加えて、ドイツは無差別に撃沈していました。商船も見つければ魚雷を発射して、沈めていました。

 無差別攻撃を行うと宣言をしたことによって、アメリカが第一次世界大戦に参戦します。つまり、荷物を運んでいる民間船を...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「科学と技術」でまず見るべき講義シリーズ
ChatGPT~AIと人間の未来(1)ChatGPTは何ができて、何ができないか
ChatGPTは考えてない?…「AIの回答」の本質とは
西垣通
ブラックホールとは何か(1)私たちが住む銀河系
太陽系は銀河系の中で塵のように小さな存在でしかない
岡朋治
「宇宙の創生」の仕組みと宇宙物理学の歴史(1)宇宙の階層構造
「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ
岡朋治
培養肉研究の現在地と未来図(1)フェイクミート市場とリアルミート研究
食肉3.0時代に突入、「培養肉」研究の今に迫る
竹内昌治
断熱から考える一年中快適で健康な住環境(1)日本の住宅の実態と問題点
なぜ日本は夏暑く、冬寒いのか…断熱から考える住宅の問題
前真之
五島列島沖合の海没処分潜水艦群調査(1)目的と潜水艦史
海底に突き刺さる旧日本海軍の潜水艦「伊58」を特定!
浦環

人気の講義ランキングTOP10
習近平―その政治の「核心」とは何か?(1)習近平政権の特徴
習近平への権力集中…習近平思想と中国の夢と強国強軍
小原雅博
熟睡できる環境・習慣とは(1)熟睡のための条件と認知行動療法
熟睡のために――認知行動療法とポジティブ・ルーティーン
西野精治
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(4)全てをつなぐ密教の世界観
密教の世界観は全宇宙を分割せずに「つないでいく」
鎌田東二
歴史の探り方、活かし方(4)史実・史料分析:秀吉と秀次編〈上〉
史料読解法…豊臣秀吉による秀次粛清の本当の理由とは?
中村彰彦
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(7)不動産暴落と企業倒産の内実
不動産暴落、大企業倒産危機…中国経済の苦境の実態とは?
垂秀夫
内側から見たアメリカと日本(1)ラストベルトをつくったのは誰か
日本でも中国でもない…ラストベルトをつくった張本人は?
島田晴雄
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
人生100年時代の「ライフシフト概論」(3)キャリアの危機〈下〉
40代前半に訪れる「中年の危機」、鍵は「人生の成長戦略」
徳岡晃一郎
戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(1)内戦と組織動乱の構造
カーク暗殺事件、戦争省、ユダヤ問題…米国内戦構造が逆転
東秀敏