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実在する「物」は見る人に強い印象を与える

五島列島沖合の海没処分潜水艦群調査(2)物自体の迫力

浦環
東京大学名誉教授/株式会社ディープ・リッジ・テク代表取締役
情報・テキスト
真珠湾に沈む戦艦アリゾナ
Wikimedia Commons
第2次世界大戦の潜水艦や艦船の記念物は、国内にはない。これは大きな問題であると浦環氏は述べる。物それ自体が与える迫力は大事であり、だからこそ、潜水艦を探す。「潜水艦がそこに沈んでいるからだ」と、浦氏はこのプロジェクトの目的を語る。(全8話中第2話)
時間:09:59
収録日:2018/03/23
追加日:2019/02/02
キーワード:
≪全文≫

●生き残った潜水艦も戦後に海没処分にされる


 さて、そこで、生き残った潜水艦が約50隻あります。それらは戦後、連合軍に接収されて、全て海没処分されました。その中で、これは五島列島沖合で海没処分される前に、佐世保の少し西側の港の湾に集結させられている潜水艦です。ここに24隻の潜水艦が並んでいますが、これを海没処分にしました。昭和21年4月1日のことです。

 この中には、非常に有名な潜特という大型の伊402という潜水艦や、非常に活躍した伊36、47、53、58という潜水艦があり、これらは戦時中にできています。それから呂50、伊366、367、また伊156、157、159、158、162という昭和の初めにできた非常に古い潜水艦もあります。それから、急ごしらえで造られた高速の潜水艦である波201型というシリーズが4艦あり、波101型と言われている輸送艦が7艦ありました。

 この伊402は非常に有名です。ここに航空機を3機積んで、アメリカ本土を狙う作戦でしたが、結局は具体的な活動に出る前に戦争が終わってしまったので使われず、戦果は何も上げていません。

 伊400、401は、ハワイ沖に連れていかれ、そこで海没処分されています。それらは2000年代に発見され、NHKが放送しているので、ご覧になった方もいるかもしれません。これらの潜水艦を発見しようというのがわれわれの目的です。


●伊58と呂50をターゲットにして特定する


 「伊58呂50特定プロジェクト」という名前を付けて、この潜水艦群を発見しようとしました。

 伊58は、これです。それから呂50はこれですが、なぜこの2つにしたかというと、どれだけちゃんと調べられるかが、よく分からなかったからです。全部が分かるまでやる、とスタートした時点で掲げると、ひょっとしたら少ししか分からないかもしれませんし、潜水艦がどうなっているか分からないので、本当に特定できるかが非常に不安でした。したがって、ターゲットは一応、狭く2艦だけにしたのですが、内心は全部特定してやると思っていたわけです。

 しかし、その中の伊402に関しては、実は2015年に日本テレビさんの「バンキシャ!」がこれを探し出し、8月16日に戦後70年を記念して放送しました。ですから、これは分かっています。他の23艦は分かっていません。日本テレビさんは、もうそれで終わってしまったのですが、まだ他の艦もいるじゃないかというわけです。他の艦がかわいそうですし、潜水艦がそこにあるのならば、全体をよく分からせるのが、海中技術者としての使命であると、強く思ったわけです。

 特に伊58は、昭和20年7月にインディアナポリスというアメリカの重巡洋艦を撃沈して、800人ぐらい亡くなっています。アメリカの戦争の中で、1艦で死亡している人数としては最大です。それから、これはいろいろな問題があり、チェスター・ニミッツとダグラス・マッカーサーとのいろいろなバトルがあって、そのために撃沈の発見が遅れて、ほとんどの人たちは、海に投げ出されて生き残っていたのですが、4日間見つけることができなくて、サメに食われて亡くなったとか、さまざまな問題が起こりました。それが『ジョーズ』という映画の中にも出てきています。

 そのような由緒のあるインディアナポリスを撃沈したのが、伊58です。それから、呂50は、このシリーズの中で生き残ったただ1つの呂の潜水艦ですが、この2つをまずは発見しようというわけです。呂50は他の潜水艦と違って、非常に特徴的な形をしています。

 これを見て分かりますように、他の潜水艦はシリーズなので、そうすると区別がとても難しいです。呂50はこのような形をしていて見つけやすいということもあります。また、呂50に対しては、他にもさまざまな思い入れがあり、それで、この2つをターゲットにしました。


●「潜水艦がそこに沈んでいるから」――海中技術者の矜持


 目標は、この伊58と呂50を特定し、その水中の画像を紹介することです。何のためにそれをやっているかという目的は、潜水艦の記念碑として、日本や世界の皆さんに紹介するためです。戦争中に戦ってきた潜水艦が、今こうなっているということを示すのが、われわれの務めであろうというわけです。いろいろな方に「なぜ浦さんはそんなことをやっているのか?」と聞かれますが、海中技術者として、「潜水艦がそこに沈んでいるからだ」と言うことにしています。

 実は、第2次世界大戦の潜水艦や艦船のモニュメントは、日本の中にはありません。例えば、横須賀に行くと、戦艦三笠が残っています。これは...
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