テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
テンミニッツTVは、有識者の生の声を10分間で伝える新しい教養動画メディアです。
すでにご登録済みの方は
このエントリーをはてなブックマークに追加

射出成形機やサイクロ減速機の技術を潜水艦が運んできた

若狭湾海中調査と潜水艦曼荼羅(8)運ばれた技術の発展

浦環
東京大学名誉教授/株式会社ディープ・リッジ・テク代表取締役
情報・テキスト
若狭湾で発見された呂500をはじめとした潜水艦は、多くの技術を日本へと運んできた。ここでは、射出成形機とサイクロ減速機を例に、潜水艦がドイツから技術を運んできて、日本の企業が戦後にそれらを発展させてきた過程を紹介する。潜水艦はドイツと日本の間でさまざまな人や技術の往来を助け、現代に生きるわれわれの生活にも影響を与えているのだ。(全10話中第8話)
時間:10:20
収録日:2019/03/14
追加日:2020/04/02
キーワード:
≪全文≫

●呂500が運んできた射出成形機がその後の日本の技術発展につながる


 それからまた元に戻ると、呂500はIsoma(イゾマ)という射出成形機を運んできます。このIsomaの射出成形機が呂500によって運ばれてきたことがなぜ分かったかというと、国立科学博物館が2018年10月末から2019年3月3日まで、「日本を変えた千の技術博」という催しを行いました。そこでは、例えばレーダーに関係する八木アンテナや、私が大学生の頃に使っていたHITAC(ハイタック)というスーパーコンピューター(スーパーコン)、当時はスーパーコンとは言っていませんでしたが、そういったものが展示されています。その技術博にIsomaも展示されていて、その説明文に「これは呂500で運ばれてきました」と書かれていました。

 私は呂500を発見した際には、そのことは知りませんでした。野村直邦が書いた本では、Isomaについては何も言及されていません。呂500が何を運んできたのか調べているのですが、なかなか分かりません。ただ、Isomaについては呂500で運ばれてきたことは彼らの調査で分かっています。

 実は現在、ドイツと日本が射出成形機の世界の市場を独占しています。その大本はIsomaにあります。Isomaは射出成形機で、それを使って、今の潜水艦や、軍艦のプラモデルがつくられているわけです。われわれも伊58のプラモデルをつくっていたのですが、実はここに起源があったのです。面白いと思います。これが曼荼羅のこの部分になります。不思議ですね。

 このエニグマについては以前から知っていましたが、サイクロ減速機はつい1カ月前に知りました。それによって曼荼羅が増えました。ウルツブルグは5カ月ぐらい前から知っていました。


●国立科学博物館における技術博でIsomaが展示される


 これは国立科学博物館でIsomaが展示された際の説明文です。化学遺産に指定されています。私は国立科学博物館を訪れた際に、ようやくこのことを知りました。「戦時中の1943(昭和18)年にドイツからユーボートで日本に輸送されたプラスチック成形用の射出成形機。戦後の日本のプラスチック製品成形用射出成形機の原点となった」と書かれています。

 ここでは以下のように紹介されています。「Isomaの射出成形機を運んだユーボートを若狭湾沖で発見。2018(平成30)年7月、九州工業大学の浦環特別教授らのチームが、ドイツから日本に譲渡された潜水艦Uボート、日本名呂500と思われる船体を若狭湾沖の海底で発見したと発表した。このUボートが1943(昭和18)年にIsomaの射出成形機を日本に運んだと思われる」。

 ここで「思われる」と書いてあるのは、慎重な態度です。なぜなら、1943年に潜水艦で運ばれてきたという事実は記録されていますが、その潜水艦がユーボートであったかどうかはどこにも記述がありません。しかし、1943年にドイツから来ている潜水艦はこれだけです。だから、ユーボートで運ばれたと国立科学博物館は推論しています。これは非常に慎重な態度です。状況証拠しかないためです。そして、「終戦後、連合軍によって若狭湾に沈められました」と最後に書かれています。

 これは展示されている射出成形機です。プラスチックのつくり方には、さまざまな方法があります。これに関して特に面白いことがありました。私は東京大学の生産技術研究所に40年ほど勤めていましたが、私の5年ほど後輩に横井秀俊氏という方がいます。彼は射出成形機の日本国内だけではなく、世界的な権威です。横井氏とは友人なのですが、彼と潜水艦のつながりで話をするとは、彼と出会ってから40年ほどたちますが、考えたこともありませんでした。横井氏にこの話をして、現在どのような研究がなされているのか話を聞き、射出成形機の勉強をしました。これは曼荼羅をつくるために、非常に重要なことです。

 これは世界を席巻する日本の射出成形機の代表として、住友重機械工業がつくっている射出成形機です。ここから入れて、ここで成形するわけです。何社か大手の射出成形機メーカーがあるのですが、これは住友重機がつくっていて、住友重機の稼ぎ頭だと、住友重機の方が言っていました。この話をした際に、実はもう1つ潜水艦で運ばれてきた減速機があって、その減速機がやはり住友重機の稼ぎ頭であることを、私の大学院の研究室の後輩だった方が教えてくれました。そのことについてはまた後で話します。

 呂500、ユーボートは同時に射出成形機の型も運んできています。2つ型があって、こちらの映像にあるのは積水化学工業が持っている型で...
テキスト全文を読む
(1カ月無料で登録)
会員登録すると資料をご覧いただくことができます。