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福井水産試験場で発見されたのは潜水艦ではなく戦時標準船

若狭湾海中調査と潜水艦曼荼羅(10)残された謎の船の正体

浦環
東京大学名誉教授/株式会社ディープ・リッジ・テク代表取締役
情報・テキスト
若狭湾調査の過程で見つかった福井水産試験場周辺の謎の船は一体何だったのか。データを譲り受けた浦環氏のチームが解析した結果、それは潜水艦ではなく戦時中に船不足を補うためにつくられた戦時標準船であると推定された。潜水艦とはまた異なる運命を辿った戦時標準船の発見は、新たな沈没船調査の課題を提示する。(全10話中第10話)
時間:06:30
収録日:2019/03/14
追加日:2020/04/16
キーワード:
≪全文≫

●福井水産試験場で発見された船をめぐるSNS上の議論


 最後に、福井水産試験場で発見されたものが、一体何だったのかということについて説明します。

 当初、われわれは、この福井水試が見つけたシンヤマという沈没船も潜水艦ではないかと思っていました。しかし、それは潜水艦ではなく、貨物船であるという確信を得ました。これは一体何なのかという疑問に対する考察の過程を説明します。

 われわれは、TwitterなどのSNSで定期的に発信しています。福井水試がここに船が沈没していると発表した際に、SNSで一体これは何なのかという議論が起こっていました。実際に議論をしている際には、私はまだそのことを知らなかったので、後からそれを確認しました。確認した情報によると、この辺に沈没していると言われている船に関するさまざまなデータがあるので、それに基づいてこの沈没船はあの船ではないか、この船ではないかという議論がSNS上で起こっていたのです。


●福井水産試験場で見つかった船は潜水艦ではなく戦時標準船だった


 その際に福井水試が発表したデータは、あまりレゾリューションが良くありませんでした。良くなかった理由は、生データを処理したソフトウェアの能力の限界かと思います。われわれは専門家なので、福井水試から生データをいただき、それをベストなデータ処理技術を使って解析し直しました。その結果がこちらの画像です。このデータは福井水試からいただいたデータになります。

 これを見ると、これは貨物船であることが分かります。真ん中にポコッとこのように貨物倉が開いています。ここから貨物を積んでいたのでしょう。それから、ここは一段高くなっていますね。こちらも一段高くなっています。真ん中のところに、スポッと何か立っていますね。また、ここにはこのようなものが見えています。

 福井水試が公表した画像を見ると、これがまるでマスト、あるいは潜望鏡のように写っていたので、潜水艦かもしれないと思いました。しかし、これはそうではなく、漁網が絡んでいるのです。それから、こちらにもロープが絡んでいますが、これも恐らく漁具でしょう。

 ここが漁礁になっているので、漁師たちはこの辺りで漁を行います。その際に、ここに網が引っ掛かると困るので、非常に慎重にこれをよけて網を入れると言っていました。しかし、昔その網が引っ掛かったのかもしれないし、魚探がよくなければ、やり損なって引っ掛かってしまったのかもしれません。それでは、これは一体何なのか考えてみます。

 沈没している船のデータとSNS上の議論を見ると、戦時標準船ではないかと思われます。戦時標準船というのは、とにかくすぐつくれる船のことで、曲がりがきれいにできているなど、手がかかった船ではなく、板を貼り付けただけの、短時間でつくられた出来合いの船です。形は非常に単純です。

 前後はちょっとはっきりしませんが、先ほどの写真だと、左側が前だと思われます。前のところがこのように残っていて、船倉が開いていて、本来は真ん中にブリッジがありますが、それは吹き飛んでいて残っていません。後ろはこのように残っています。


●戦時中に撃墜された戦時標準船と戦時徴用船、今後の調査課題


 これは戦時標準船の、恐らく樫丸であろうと思われます。そのデータを私はまだきちんと精査していませんが、SNSで議論している人たちが出しているデータと、それから樫丸がここに沈んだとするデータ、実はそのデータはこの位置を指してはいませんが、このような情報をまとめてみると、これは樫丸に違いないと考えられます。現時点では、樫丸であろうと言った方が良いのかもしれません。

 知っている人は知っていますが、戦争中に多くの船が撃墜されたので、運ぶ船がなくなってしまい、急いでつくらなければ物資が運べないという背景のもと、この戦時標準船はつくられました。護衛もなく、山のように戦時標準船は沈められました。次回にお話しする大洋丸でも、同じように沈められ多くの船員が亡くなりました。大洋丸は立派な客船ですが、これは粗末な船です。これは非常に悲しいことで、こういうことがあってはならないと思います。

 われわれはこの調査を終えて、呂500と直接つながっているわけではないですが、曼荼羅の中に樫丸も入れました。これは戦時標準船ですが、その上に書いてあるのは、戦時徴用船の客船、大洋丸、それからこれも戦時徴用船の客船の、りま丸です。この2つは両方とも日本郵船の船です。次回はこの2つの船にまつわる、われわれの調査と技術の話をしたいと思います。以上です。ありがとうございました。
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