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捨てられた潜水艦は国有財産だが海は管理されていない

五島列島沖合の海没処分潜水艦群調査(8)管理されない海

浦環
東京大学名誉教授/株式会社ディープ・リッジ・テク代表取締役
情報・テキスト
海は誰のものなのだろうか。浦環氏はこの疑問に対して、誰のものでもない、と答える。誰のものでもなく、管理もされないことから多くの問題が生じる。浦氏が今回の調査の中で出くわした、不思議だが重要なエピソードを語る。(全8話中第8話)
時間:06:22
収録日:2018/03/23
追加日:2019/03/16
タグ:
≪全文≫

●連合軍が捨てた軍艦が国有財産になった


 もう1つ、これをやって分かった重要なことは、海底に沈んでいる潜水艦は一体、誰のものかということです。現在の公式の見解では、この潜水艦は日本国の財産、つまり、財務省の国有財産であるとされています。しかし考えてみると、そうなってはいるのですが、具体的にはアメリカというか、連合国、連合軍が接収して、海に捨てたのです。

 海に捨てたとはどういうことかというと、捨てたのならば、誰が持ち主なのかといいたいですよね。そうしたら、連合軍はどうしたでしょうか。捨てた後に返したと言うのです。捨てて返した、こういうことがあるのでしょうか。不思議です。海に捨てて、接収した。接収したというのは、戦後、軍のものは全て国有財産になるのです。国有財産になって連合軍が接収したのですが、それは国有財産でしょう。しかしながら、それは捨てたのです。捨てたというのは何でしょうか。私は不思議だと思いました。捨てたらもう誰のものでもないから、日本国のものではないのではと思ったのですが、アメリカ軍が捨てたものを返したから国有財産ですと、このようになったのです。


●海は誰も管理していない


 われわれは、実はこれを調査するのに、国有財産の調査依頼を出します。なぜならば、国の財産を勝手に調査してはいけないので、調査したいからよろしくご許可願いますというのを出すのですが、さて、そうすると次は、これをどこに出すのでしょうか。財務省に出します。しかし、海に沈んでいるところは、五島の沖合です。五島の沖合は、一体誰が管理しているのでしょうか。

 これは重要なことです。日本の海の管理は誰もしていません。つまり、今、こう私が立っているのは、東京都のある市ですが、ここはわが国の東京都の何とか市というところで、市と都がはっきりしています。その人たちがここを管理しているわけです。

 しかし、海の上はどうでしょうか。海の上は、例えば五島の沖合は、五島市が管理しているのでしょうか。そういうことはありません。管理は全くされていないし、どこの役所が管理しているかも分かりません。だから、五島市の沖合は長崎県のものですかと言われたら、長崎県のものではないのです。長崎県が管理しているわけではないのです。

 ですから、例えば東京湾の埋め立てをしたときに、それは一体どの区のものだろうかというのは取り合いです。私の海を、要は埋め立てたのだから、これは私のものと言う人は誰もいないのです。これはとても重要なことです。

 だから例えば、これは港区のものです、品川区のものです、大田区のものですと皆で取り合うのです。それで決まるわけですが、それはなぜかというと、海の上は区分けされていないし、管理者が決まっていません。ここが問題です。われわれはこれを一応、財務省に聞いて、一体どこに出すのでしょうかと、東京の財務省の本部に出すのでしょうか、本省に出すのでしょうかと聞いたら、そうではなく一応、福岡県の支所に出してくれ、といわれました。だって福岡県、関係ないじゃないですか。あそこは誰が、どこの県が管轄しているか、あなたの財務省で管轄しているか、どこにも書いていません。いや、でもそうしましょう、というようなことで非常に訳が分かりません。これが海の難しさになってくるわけです。


●海岸は河川の管理責任者だけが決まっている


 似たようなことで今、海岸をやっているのですが、海岸は、海岸管理者というのが国の法律で決まっています。例えば今、私どもがいるところの、北九州の岩屋海岸は、北九州市が管理しています。また、どこかの川は、国土交通省の河川局が管理しています、と管理責任者がはっきりしています。しかし、その管理責任者はどこまででしょうか。海の上に行くのでしょうかというと、海の上には行きません。

 つまり、流木がどどーっと流れてきて打ち上げられれば、その打ち上げられた流木は、管理者が何とかしなくてはいけないのですが、海の上にぷかぷか浮いているものは、誰がそこの海域を管理しているかが分からないのです。もちろん、そんなけちなこと言わないで、環境省なども出てきていろいろやります。いろいろやりますが、管理者がいません。このことは、よく日本の海を考えるときに、よく理解をしていただきたいです。それがこういうところにも表れているということです。
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