●財政問題はデータに基づいてきちっと議論をすることが必要
―― 財務省の香川俊介元財務次官が亡くなってから5年ほどたつわけですが、彼は、「このままいくと国が壊れてしまう。国が破産したら社会保障もクソもない。今ある介護も、全部壊れてしまう」と言っていました。だけど、そういうことは、壊れる日の前日まで誰も分からないので、だからそういうことを言い続けた。それは、自分のためじゃなくて、将来の日本人のために、です。これも「時点」という意味の視点が違うと思うんですが、ともかく財政再建ということを唱え続けたのです。
だけど、少なくともこの7年間くらいの間に、財政再建という言葉は禁句みたいな感じになってしまいました。日本は国債を持っているから、お金はいくらでも出てくるという感じのロジックで来ている。貿易収支は黒字になったり赤字になったりしているけれども、投資収益は20兆円規模で黒字だと。だから2030年~40年くらいまでの間は大丈夫というイメージが強くなってしまいました。このあたりについて、先生のお考えをお聞かせ願えればと思います。
柳川 財政の問題は、すごく大事だと思うんですね。なので、しっかりとした財政構造をつくっていくというのが、将来世代にとって、当然ですけど安心感のある社会保障だとか、あるいは必要な公共支出などをやっていくための基盤になると思うんです。
ただ、安定的な財政状況とはいったい何か。やはりこのことに関する共通理解が今、ずいぶんなくなってしまっている。ある意味で、財政赤字はとにかくどんどん出していても問題ないというような議論がだいぶ出てきている。そこは、財政がどういう状況になるとまずいのか、何が問題を引き起こすのか、あるいはどんな問題を引き起こすのか、ということをもう少しデータに基づいてきちっと議論をすることが必要かなと思うんです。
結果論ですが、財政がもう危機的な状況でずっと来ているその一方では、そんな心配されたことは何も起きなかったということも事実です。それをもってすると、オオカミ少年といわれるようなことになっていたりもするわけですね。
本当に危機のポイントはどこかにあるはずなので、それを考えると、「いつまでも危機が来ないから大丈夫なんだ」と考えてしまうのは、かなり短絡的な話だと思います。
●危機感はイメージしにくい、共有しにくい
柳川 ...