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財政問題が解決しない理由に「危機感の共有」の欠如がある

財政再建のために何が必要か(1)危機感を共有する

情報・テキスト
日本の財政は長年危機的状況のまま、再建への確かな手がかりをつかめずにいる。柳川範之氏は、ただ「危ない、大変だ」と思うのではなく、危機を具体的にイメージすることが重要だと言う。危機的状況とはどんな状態のことか。どんな負担が生じるのか。危機感を共有するためには、現在の状況と、将来可能性のある危機的状況を比較することが肝要だ。(全2話中第1話)
※インタビュアー:神藏孝之(テンミニッツTV論説主幹)
時間:08:15
収録日:2020/08/19
追加日:2020/11/01
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≪全文≫

●財政問題はデータに基づいてきちっと議論をすることが必要


―― 財務省の香川俊介元財務次官が亡くなってから4年ほどたつわけですが、彼は、「このままいくと国が壊れてしまう。国が破産したら社会保障もクソもない。今ある介護も、全部壊れてしまう」と言っていました。だけど、そういうことは、壊れる日の前日まで誰も分からないので、だからそういうことを言い続けた。それは、自分のためじゃなくて、将来の日本人のために、です。これも「時点」という意味の視点が違うと思うんですが、ともかく財政再建ということを唱え続けたのです。

 だけど、少なくともこの7年間くらいの間に、財政再建という言葉は禁句みたいな感じになってしまいました。日本は国債を持っているから、お金はいくらでも出てくるという感じのロジックで来ている。貿易収支は黒字になったり赤字になったりしているけれども、投資収益は20兆円規模で黒字だと。だから2030年~40年くらいまでの間は大丈夫というイメージが強くなってしまいました。このあたりについて、先生のお考えをお聞かせ願えればと思います。

柳川 財政の問題は、すごく大事だと思うんですね。なので、しっかりとした財政構造をつくっていくというのが、将来世代にとって、当然ですけど安心感のある社会保障だとか、あるいは必要な公共支出などをやっていくための基盤になると思うんです。

 ただ、安定的な財政状況とはいったい何か。やはりこのことに関する共通理解が今、ずいぶんなくなってしまっている。ある意味で、財政赤字はとにかくどんどん出していても問題ないというような議論がだいぶ出てきている。そこは、財政がどういう状況になるとまずいのか、何が問題を引き起こすのか、あるいはどんな問題を引き起こすのか、ということをもう少しデータに基づいてきちっと議論をすることが必要かなと思うんです。

 結果論ですが、財政がもう危機的な状況でずっと来ているその一方では、そんな心配されたことは何も起きなかったということも事実です。それをもってすると、オオカミ少年といわれるようなことになっていたりもするわけですね。

 本当に危機のポイントはどこかにあるはずなので、それを考えると、「いつまでも危機が来ないから大丈夫なんだ」と考えてしまうのは、かなり短絡的な話だと思います。


●危機感はイメージしにくい、共有しにくい


柳川 ただ一方で、財政の話は非常に難しい。例えば、今回もコロナのために大きな財政支出をしましたけど、では支出した翌月に世の中がガラガラと壊れて、道路で車の流れがとまったり、あるいは何かしたかというと、そうでもなかったわけです。

 そう考えると、みんな、将来崩壊する瞬間を非常に認識しにくい。「ああ、だんだん危なそうだな」というようなことを認識しにくい。そういう危機感をみんなが味わわずに済むように世の中を回しているから見えないわけですが、でも、そうであるがゆえに、みんなが危機感を共有しにくい。

 財政が厳しくなってくると、ときどき1週間にいっぺんぐらい停電するんですとか、例えばそういうことがあれば、みんなが「そろそろやばいな」と感じることができる。だんだん停電の回数が増えてきた、みたいなことなんですが、そんなことは何も起きない。ある意味で、何か起きるまで、直接的にはみんな困らないということがあるからです。

 だからこそ、危機の状況というのは本当にどのように危ないのかとか、危機的な状況が起きるといったいどこに大きな負担が来て、どのようになっていくのかということを、経済学者は研究して学ぶので、ある種、理論的な構造の中で理解している人が多いわけです。

 やはりそういうものは一般的には共有されていない。だから、単に「危ないですよ。大変ですよ」ということではなく、そういうロジック的なものも含めて、ちゃんと共有していくことが重要かと。

 そこの共有がないと、なかなかみんなが同じような、そういう危機感を共有しにくいということはあるのかなと思います。


●今と将来を正しく比較することの難しさ


―― 財務省がやっている財政再建ですが、この40年間、負け続けていたんだと思うんですよね。そうであるとすれば、財務省が取ってきた戦略は間違いだったんじゃないかとか、もっと違う感じの議論をしなきゃいけなかったし、もっと違う比較の指標をつくらなきゃいけなかった。同じようなやり方でさらに10年やっても、もっとひどくなっているだけです。

 でも、ここの組み立てを大きく変えない限り、財政再建に向けて改善の方向に行くというのは難しいんじゃないかなと。

柳川 そうですね、それはそうなのかもしれないですね。ただ一方で、要するにわれわれ人間は、「将来、まだ見たことのないような危機が来ます。このまま続けていくと危...
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