知足の政治家・保科正之に学ぶ
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
保科正之…家光に心から信頼された生き方と力量
知足の政治家・保科正之に学ぶ(1)明暦の大火、臨機の政治
山内昌之(東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授)
徳川2代将軍・秀忠の庶子として生まれた保科正之。兄で3代将軍・家光からの信を受け、4代将軍・家綱の後見人として手腕を発揮していく。保科正之の生き方には、政治家としてだけでなく、一己の人間として、私たちに教えてくれるものがあると語る山内昌之氏。そんな保科正之の魅力とリーダーシップを山内氏が語る。(前編)
時間:17分34秒
収録日:2014年9月3日
追加日:2014年11月14日
≪全文≫

●2代将軍・徳川秀忠の庶子として生まれた保科正之


 皆さんは、保科正之という人物について、お聞きになられたことがおありでしょうか。

 保科正之は、徳川幕府をつくった家康の息子、2代将軍・秀忠の庶子として生まれた人物です。すなわち、家康の孫ということになります。3代将軍・家光の弟、そして、駿河大納言・忠長の弟ということになりますが、母親は淀君の妹であったお江与ではありません。お静という女性で、秀忠が生涯、正室であるお江与以外の女性との間に、ほとんど例外的にもうけたとされる子どもでありました。

 この保科正之について、今回なぜ触れたいかと申しますと、保科正之の生き方は、政治家として、あるいは、社会的に責任を持つエリートの姿として、ひいては、人間一己の生き方として、ずいぶんと私たちに教えてくれるものがあるからです。


●家光は、正之が謙虚で思いやりが深く、信頼に足る人物だと知る


 保科正之は、父親が将軍でありながら、生まれると同時にすぐ外に出されます。そして、秀忠の庇護を離れて生きていくことになりますが、それは、お江与が本来非常に悋気 (りんき)のたちで、嫉妬深い人物であったということも左右しています。

 保科正之という名前が示すように、彼は、やがて信州、高遠(たかとう)の藩主、保科家に養子として迎えられ、そこで成長します。したがって、保科正之が、将軍・家光や忠長の弟であるということは、誰もが知らないままに成長するのです。

 ところが、ある日、家光は自分に弟がいるということを知って、この母親が違う腹違いの弟をそれとなく観察します。そうすると、この弟は非常にものにおごらず、そして、他人に対し謙虚であり、かつ、思いやりが深く、そして、何よりも将軍である家光に対して非常に忠誠を誓う、まことに信頼に足りるあっぱれな人物だということを知るに至ります。

 さらにいろいろと観察していきますと、この正之につきまして、その人格や人柄がともかく素晴らしいと人々が皆評価するということを知って、この人物は、ひょっとして自分の子ども、すなわち、4代将軍になる家綱、あるいは、将来の徳川家、徳川幕府を託するに足りる人物ではないかと思うに至ります。


●臣下の礼を怠った実弟の忠長に切腹の悲劇


 家光には、先ほど申しましたように、忠長という同じ腹から生まれた、お江与の子であった弟が...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「歴史と社会」でまず見るべき講義シリーズ
核DNAからさぐる日本のルーツ(1)人類の起源と広がり
人類の祖先たちの「出アフリカ」…その時期はいつ頃?
斎藤成也
豊臣政権に学ぶ「リーダーと補佐役」の関係(1)話し上手な天下人
織田信長と豊臣秀吉の関係…信長が評価した二つの才覚とは
小和田哲男
ローマ史に学ぶ戦略思考~ローマ史講座Ⅳ(1)古代の持つ意義と重み
一神教もアルファベットも貨幣も全て古代に生まれた
本村凌二
『昭和16年夏の敗戦』と『昭和23年冬の暗号』
『昭和16年夏の敗戦』『昭和23年冬の暗号』が映す未来とは
猪瀬直樹
天下人・織田信長の実像に迫る(1)戦国時代の日本のすがた
近年の研究で変わってきた織田信長の実像
柴裕之
古代中国の「日常史」(1)日常史研究とは何か
『古代中国の24時間』英雄だけでなく無名の民に注目!
柿沼陽平

人気の講義ランキングTOP10
デカルトの感情論に学ぶ(1)愛に現れる身体のメカニズム
デカルトが注目した心と体の条件づけのメカニズム
津崎良典
内側から見たアメリカと日本(2)アメリカの大転換とトランプの誤解
偉大だったアメリカを全否定…世界が驚いたトランプの言動
島田晴雄
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如
なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために
鎌田東二
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(2)バイアスの正体と情報の抑制
『100万回死んだねこ』って…!?記憶の限界とバイアスの役割
今井むつみ
戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(1)内戦と組織動乱の構造
カーク暗殺事件、戦争省、ユダヤ問題…米国内戦構造が逆転
東秀敏
徳と仏教の人生論(1)経営者の条件と50年間悩み続けた命題
宇宙の理法――松下幸之助からの命題が50年後に解けた理由
田口佳史
認知バイアス~その仕組みと可能性(1)認知バイアス入門
誰もが陥る「認知バイアス」…その例とメカニズム
鈴木宏昭
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち
なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る
今井むつみ
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
禅とは何か~禅と仏教の心(1)アメリカの禅と日本の禅
自発性を重んじる――藤田一照師が禅と仏教の心を説く
藤田一照