墨子に学ぶ「防衛」の神髄
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
墨子の国防論のポイントは純粋性と知的したたかさ
墨子に学ぶ「防衛」の神髄(2)非攻の実践のために
墨子は「兼愛」や「非攻」を説くだけでなく、実践する方法にも優れていた。先端的な科学技術を駆使し、攻撃側がひるむほどの防衛策の徹底を実践したのである。また、人材育成や資源の有限性に向かうため、「尚賢論」「節用論」も展開している。混乱する世界の中での「非戦」はこうあるべきだろう。(全2話中第2話)
※インタビュアー:神藏孝之(テンミニッツTV論説主幹)
時間:9分40秒
収録日:2021年12月23日
追加日:2022年5月18日
≪全文≫

●兼愛による非攻を実現する「尚賢」と「節用」


田口 そのため(「兼愛論」の実現)にはどうしたらいいかというと、賢い人間がたくさんいなければいけない。賢い人間とは何でしょう。頭がいいというのではありません。前回お話しした論法に則り、その通りに主張できる人が、国家のトップ、会社のトップ、グループのトップにいることが重要です。これを「尚賢」といいます。

 これは「高い賢者」という意味で、「尚賢論」という章も(『墨子』には)ちゃんとあり、「尚賢とはどういう人か」が説かれています。

 (『墨子』には)天も神も出てきます。ただ、われわれがそれに則って生きるべきだというと、運命論になってしまうが、それは違う。これを否定する概念を「非命」といいます。「定命」はない、つまり宿命も運命もこの世にはない、と彼は言うわけです。人間はひたすら努力をもって生きなければならない。(賢さなどの)高い低いは努力で決まるのであり、そうなる宿命や運命があるわけではないといいます。

 そうなってくることで、節約の大切さが浮かび上がります。これは「節用」です。

―― 節約ですね。

田口 そして、特に「節葬」ということをいうわけです。当時は、目上の人が亡くなると、周囲の者が一緒に亡くなったりしたこともありました。そういうことはよくない。また、亡くなった人をきちんと手厚く葬るのはいいけれども、やり過ぎはよくないといいます。

―― なるほど。やり過ぎはよくないのですね。

田口 節度がなければいけないといっています。

 そのように、あれに対してはこれ、それに対してはこれという論法がある。「ああくれば、こう返す」ではありませんが、骨格から細部に至るまで、全て完璧に人を説得できる非攻論になっているのです。

―― それはすごいことですね。

田口 まず防備です。彼は戦ってはいけないと言いますから、もう防備しかない。防衛は認めているわけです。

―― なるほど。

田口 ソフトパワーとしての防備というものが、これだけ論理的に成り立っているということが、まず一つ。国家の防衛には論理的なものが重要なのです。反論を凌駕するような論法を、十重二十重に用意しておかなければなりません。


●科学技術を駆使して防衛を徹底


田口 今、中国へ行って、墨子の本名である墨テキの名前を出すと、みんな「あの科学技術の祖です...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
本当によくわかる経済学史(1)経済学史の概観
経済学史の基礎知識…大きな流れをいかに理解すべきか
柿埜真吾
台湾有事を考える(1)中国の核心的利益と太平洋覇権構想
習近平政権の野望とそのカギを握る台湾の地理的条件
島田晴雄
内側から見たアメリカと日本(1)ラストベルトをつくったのは誰か
日本でも中国でもない…ラストベルトをつくった張本人は?
島田晴雄
日本の財政政策の効果を評価する(1)「高齢化」による効果の低下
高齢化で財政政策の有効性が低下…財政乗数に与える影響
宮本弘曉
財政問題の本質を考える(1)「国の借金」の歴史と内訳
いつから日本は慢性的な借金依存の財政体質になったのか
岡本薫明
為替レートから考える日本の競争力・購買力(1)為替レートと物の値段で見る円の価値
ビッグマック指数から考える実質為替レートと購買力平価
養田功一郎

人気の講義ランキングTOP10
豊臣兄弟~秀吉と秀長の実像に迫る(4)信長の直臣、秀吉の与力としての秀長
最初は信長の直臣として活躍――武闘派・秀長の前半生は?
黒田基樹
逆境に対峙する哲学(1)日常性が「破れ」て思考が始まる
逆境にどう対峙するか…西洋哲学×東洋哲学で問う知的ライブ
津崎良典
生成AI「Round 2」への向き合い方(1)生成AI導入の現在地
生成AIの利活用に格差…世界の導入事情と日本の現状
渡辺宣彦
葛飾北斎と応為~その生涯と作品(4)葛飾応為の芸術と人生
親娘で進歩させた芸術…葛飾応為の絵の特徴と北斎との比較
堀口茉純
人の行動の「なぜ」を読み解く行動分析学(1)随伴性
「なぜ人は部屋を片付けられないか」を行動分析学で考える
島宗理
インテリジェンス・ヒストリー入門(1)情報収集と行動
日本の外交には「インテリジェンス」が足りない
中西輝政
「アメリカの教会」でわかる米国の本質(1)アメリカはそもそも分断社会
「キリスト教は知らない」ではアメリカ市民はつとまらない
橋爪大三郎
平和の追求~哲学者たちの構想(6)EU批判とアメリカの現状
理想を具現化した国連やEUへの批判がなぜ高まっているのか
川出良枝
「宇宙の創生」の仕組みと宇宙物理学の歴史(1)宇宙の階層構造
「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ
岡朋治
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ