●教養があるとは、いろいろなことをたくさん知っていることなのか
総合研究大学院大学の長谷川です。
教養とは何だろうか。これは非常に大きな話題です。「教養とは何か」についての専門家など多分いないと思いますが、私も専門家ではありません。
ただ、「教養小説」という言葉があります。ほとんどは男の子を主人公にして、子どもが成長して一人前の大人になっていくまでの苦労なり青春の蹉跌というようなことを描いた小説で、これらは「教養小説」と呼ばれることがあります。
私が一番好きなのは、サマセット・モームの『人間の絆』という話です。あれはずいぶん一所懸命読んで、何度も泣いたり笑ったりしました。ヘルマン・ヘッセの『車輪の下』などもその類でしょう。
だけど、今日私が取り上げたいのは、斉藤洋さんという方が書いた『ルドルフとイッパイアッテナ』という絵本です。ご存じでしょうか。のら猫仲間の猫たちがしゃべる話です。飼い猫だったルドルフがのらになって、いろいろな体験をする中、イッパイアッテナというのら猫のボスに出会い、お友だちになります。それによって成長していくので、この絵本も教養小説の一つです。
イッパイアッテナというボスは大変教養のある猫です。のら猫仲間の一匹が、あるメス猫に恋心を抱いているらしいと勘ぐっていたルドルフは、「教養のある猫というのは、そういうことは聞かないものだよ」とイッパイアッテナに言われてしまいます。
教養があるというのは、いろいろなことをたくさん知っているということでしょうか。もし、そうだとすれば、どうして友だちの恋心について聞かないことが教養のあることになるのだろうか、ということを少し考えたりしました。
●リベラルアーツとは限界から解放されること
東京大学の教養学部で学部長をされていた石井洋二郎先生は、リベラルアーツ(教養)についての考察を重ねた方です。藤垣裕子氏との共著で書かれた『大人になるためのリベラルアーツ』(東京大学出版会)の中で、いいことをたくさん言われています。
まず、教養はいろいろなことを知っているだけではない。それから、リベラルアーツの「リベラル(liberal)」は「リベレート(liberate)」と同じ語源なの...