●ブラジルの復元力を支える明るさ-その秘密は「多様性」にあり
ジルマ・ルセフさんは、ブルガリア系とブラジル系の混血なのですが、お父さんと14歳で死別して、大学時代に軍政に反対して左翼ゲリラ活動をしたために、何度も牢獄に入れられて拷問を受けています。ただ、前大統領のルーラさんに見込まれて閣内に入って大臣になって、官房長官を務めました。「鉄の女」と言われ、ものすごく冷たい感じの人だったのですが、今、新聞にも出ていますけれど、整形手術をして表情を全部変えて、何だか頼りがいのある優しいおばさんのような雰囲気が出てきていますね。
このルセフさんがいろいろ政策を試みたのですが、一回目でお話ししたようないろいろな問題があって、なかなかうまくは行きませんでした。ただ、ここまでで申し上げたように、あの大国は4回も5回も浮沈を繰り返しています。すごい復元力があるということで、やはりそれを支えているのは、彼らの明るさではないかと思うのです。
その明るさの秘密の一つは、日本にないことですが、人材が非常に多様なことです。白人が約40パーセント。そして、モレーノというのですが、これは白人と現地住民の混血です。ブラジルの褐色の肌というのは、皆、モレーノですよね。今、ものすごく受けていて、ファッションモデルや、映画俳優にもたくさんいますが、この人たちが55パーセントくらいで、黒人約5パーセント、アジア系が1パーセントです。1パーセントというと大体200万人ですね。そのうち150万人が日系人です。
なぜ、日系人がブラジルで他の南米諸国にはないほど活躍できたのかというと、この多様性の成せるわざではないかという説があって、私もそうだなという感じがします。非常に包容力があって、許容性の高い開放的な社会ですよね。犯罪率はすごいですけれども、そのようなことは皆、気にしません。
●デザインと世界戦略でトップメーカーに躍り出たエンブラエル
ブラジルにエンブラエルという小型機をつくっている飛行機メーカーがあります。小型機メーカーは、カナダのロンバルディアがずっと支配していたのですが、この10年ぐらいでエンブラエルが急追して、とうとう追い抜き、世界一になりました。そのエンブラエルの工場を見に行って、写真は撮るなと言われたので、1枚だけ撮らせてもらいました。すてきな飛行機をつくっていますね。日本航空も何機か頼んでいますし、世界中に売っています。
なぜ、このように急成長できたのか。国有企業だったのが、民政移管して15年ぐらいでこうなったのですね。エンジンは何かというと、ロールス・ロイスです。基本的なところは、日本からも川崎重工から主翼を買ったりしていて、自分のところではほとんどつくっていないのです。工場もものすごくきれいで、音も聞こえない。何もつくっていなくて組み合わせるだけで、世界中で何を売るのかというと、デザインと世界戦略なのです。
●真面目すぎる日本のメーカーと多様な人材が楽しく切磋琢磨するブラジルのメーカー
日本は三菱重工がMRJ(三菱リージョナルジェット)という旅客機を開発していますが、全然飛びません。三菱の役員で僕の教え子がエンブラエルに一緒に行ってくれましたが、彼がなかなか軽妙な辛口で、「駄目なんですよね、日本の人たちは」と言うのです。何が駄目なのかというと、工学部の人は、自分の専門しか分からない。これは深堀りで、I字型の知識と言うのですが、必要で望ましいのはT字型の知識なのに、日本はますますI字型になっているのです。真面目すぎるのですね。
さらに、「三菱がやるからにはボーイング抜く」などと言って、何だか肩にめちゃくちゃ力が入っているのです。一方でエンブラエルはどうかと言えば、肩に何も力が入っていません。例えばゴルフなら、ティーグラウンドに立つと、サーッと打ってポーン、いいじゃないか、言わばそういった打ち方です。これに対して三菱はカーッと考えます。20秒ぐらいティーグラウンドへ立って、そうやって打っても少ししか飛ばない。500ヤード行くのに17回も打ってしまうというようなことをやっているのです。「天下の三菱がやるからには」とか「天下の日本が」などというのは、全然駄目なのです。エンブラエルのように何でもいいから良いものを世界中から集めればいいではないか、ということですよね。ただ、エンブラエルの営業はすごいです。こうして、いろいろなものをつくってお客さまの満足に応えているというのは、やはり学ぶべきですね。
これはやはり、ブラジルが多民族の国だからなのです。ものすごく優秀で、民族背景の違いを持った人たちがたくさん入っていて、楽しく切磋琢磨しながら営業戦略やら世界中からシェアをもぎとる戦略を考えていて、こういうものをつくって...