●「保守主義」のとらえ方その1-右派、革新の対極、王権を尊重するという考え方
今日、ご質問がありましたのは、「保守主義」ということです。これは大変難しい質問の一つで、たとえば自民党のなかで「保守とは何か」「保守主義とは何か」と論争が始まりますと、なかなかまとまらないのです。
大きく分けて、保守主義という考え方は二つあります。
右派というものと保守主義は一緒ではないか。左派に対する右派。あるいは革新や社会主義に対する保守。こういう考え方がありますが、「保守」という、そもそも守るべき伝統や文化、歴史というのは何を指しているのか。
これは日本やアメリカの場合、イギリスやヨーロッパの場合もあり大変難しいのですが、一つは、貴族なりあるいは王様がいる国は、「王様を守る」あるいは「王権を尊重する」というような歴史的な流れがあるわけです。
●「保守主義」のとらえ方その2-大きな政府に対する小さな政府の均衡財政
そのような保守主義というものと、現在、外交や経済であるとか、あるいは政治や社会などがありますが、たとえば、社会というものは一般的には保守主義を分けるときに、我々は尺度をつくります。右と左の尺度と同時に、経済的に自由主義を指すときの保守主義や小さな政府の保守主義というものと、大きな政府の、政府が経済的に市場に介入するものがあります。このような小さな政府、大きな政府の対比で、経済的な自由主義、あるいは小さな政府の流れで言えば均衡財政を保守主義と呼ぶこともあります。当然、小さな政府であるからには、政治の役割や政府の役割を小さくして市場を尊重するという役割があります。
しかし、難しいのは昔の保守主義、つまり自由主義や均衡財政の人と現在の新自由主義の人とは同じであるのか、その差がよく分からないということです。
いずれにしても大きく言って、大きな政府と小さな政府が経済的にはあるわけです。
問題は、政治的な保守というのは、先ほども申したように、たとえば片方に革命や変革などを強調する左派がいて、右派は伝統や文化、あるいは歴史を重んずるという保守、どちらかと言えば民族主義的な色彩が強い保守という理論や立場があるわけです。
調べていくとこれは大変難しいのですが、「あなたは保守ですか、革新ですか」あるいは「経済的にあなたの立場は市場中心ですか、大きな政府ですか」というような聞き方をすると、答えてくれないことはない。ですから世論調査は可能な領域です。
●思想的、原理的には保守の中身はかなり多様
世論調査が可能な一般的な人の政治的立場を区別する方法と、もう一つは、思想的に、あるいは原理的に、同じ保守と言ってもどういう違いがあるのか。たとえば外交において同じ保守と言っても、アメリカ派あるいは親米派と反米派あるいはアメリカと距離を置く立場があるわけです。ですから、一括りにすると、それは立場としては保守ですが、しかし、よくよく考えてみると、アメリカ中心主義を唱えている保守と、アメリカよりもむしろ自主独立を唱えている保守と両方あるだろうと思います。
あるいは日本の戦前や占領期に対する評価として、戦前の日本が行った外交や軍事に対する否定的な立場、こういうものを保守、右派とする場合と、もっと積極的に、現在の外交を国際貢献なりあるいは国際的に積極的に打って出て行くということを考える立場の人もいるわけですし、そこが消極的に孤立主義的な発想で、どちらかと言うと「世界の出来事にはコミットしたくない」という立場もあります。
このような考え方でしばしば出てくるのは、イギリスでは保守党「Conservative Party」という党自体が保守を名乗っている党がありますが、そのときの保守とは一体何か。
これは、一つには「極端なことを嫌う」ということです。この「極端なこと」とは、フランス革命に代表されるわけですが、過去の文化を根こそぎ根絶やしにしようというような立場を嫌う、改革、変革によって一気に物事を解決するということはない、非常に懐疑主義的なところがあり、穏健的な発想であると思います。
そういう意味で言うと、若干シニカルな保守もいるし、かなり積極的な改革派の保守もいる。サッチャーに関して言えば、保守主義であると同時に改革派だったわけです。そういう点で、アメリカの今の共和党などを見ても、かなり極端な、つまりティーパーティーのようなグループに近い人もいるけれども、均衡財政や小さな政府で行くだけでは済まない。つまり、歳出を減らす、税収を増やす、それだけではなくて、中に改革を含めることによって、減税と歳出減は両方可能なのだという保守の人もいます。
このように「保守」と一言で言うけれども、その中身はかなり多様であります。