●比例得票数の伸び悩みが示す、民主党への失望
今回は、総選挙の後の政治はどのように動くのかという話をしたいと思います。
その前に、一つ、前回の話(「今回の選挙を振り返る」)の中でお話しするのを忘れた点がありますので、補足します。自民党は290議席を取ってなかなか強みを発揮していますが、自民党の比例区の票を見ると、非常に面白い数字があります。5年前の2009年の総選挙、これは自民党が民主党に敗れて政権を失った時ですが、その時の自民党の比例区の投票数は、ざっと1800万票でした。一方、2年前、自民党が政権に復帰した時の得票数を見ると、自民党の票は1600万票に落ち込んでいます。つまり、政権に復帰した時に、票数を減らしているのです。
今回はその中間程度で、約1700万票です。2年前よりはかなり復活してきたけれども、最近で一番多い5年前の1800万票台には戻らなかった。逆に言うと、自民党は、1600万から1800万ぐらいの基礎票というか、自民党のお得意さんというか、そういう基盤を固めつつあるのかなという状況です。
一方、民主党は、5年前に政権を奪った2009年の総選挙では、3000万票近い比例票を取りました。しかし、その後3年3カ月の政権運営に対する厳しい批判があり、2年前の2012年の総選挙では、900万票台に落ちました。今回、若干盛り返したとは言いながら、まだ900万台の比例票でした。そういう意味では、有権者の民主党に対する厳しい視線、つまり「あの3年3カ月の政権運営はまだまだ未熟だった」という厳しい視線は、まだ続いているというところです。ですので、民主党が果たしてどこまで回復してくるのかというのが、今後の政治の見どころになります。
また、今回の民主党は、小選挙区275選挙区のうち、178カ所でしか公認候補を立てられず、100カ所近い選挙区で立候補者を立てることができませんでした。これはやはり、有権者からすると、非常に失望するところがあったと思います。これが、比例票の伸び悩みにもつながっています。典型的なのは、前の経済産業大臣で、政治と金のスキャンダルで辞任した小渕優子さんの選挙区に対して、民主党が独自候補を擁立できなかったということです。民主党の足腰の弱さ、力不足は、こういうところに端的に表れて、露呈しています。そこをまず克服していくのが、民主党にとっては一番大きな課題だと思います。
●「この道しかない」アベノミクスだが、前途は多難
さて、総選挙が終わって特別国会が開かれ、安倍晋三総理が選ばれて、第3次安倍内閣がスタートしました。安倍総理としては、小泉純一郎元首相の後に1年間総理大臣をやり、その時は体調の問題もあり、自民党の中が混乱して1年で退場を余儀なくされたわけですが、2年前に復活して再び総理に返り咲き、2年間アベノミクスを掲げてやってきて、ようやく政権運営が順調に進み、今度は解散総選挙に打って出て、自民党の議席をほぼ維持して、自分の政権をさらに強化していこうということでしょう。
ですので、選挙で安倍総理が公約したのは、文字通り「この道しかない」ということで、今のアベノミクスをさらに推進していくということでした。経済を最優先でいくということですので、われわれも見守っていきたいと思います。
経済の面に限ると、確かにアベノミクスは途上で、特に三本目の矢、成長戦略、構造改革の部分でなかなか成果が上がらない。「雇用は拡大した」とは言いながら、正規の雇用には浸透してこない。労働者の賃上げを安倍総理自身が財界に要請するという異例の展開にもなっていますが、どうも「賃金が上がって、消費が拡大して、それによって国内の経済がどんどん上向いていく」という流れには、なかなかなっていません。どのような形でこの経済を立て直していくかで、安倍総理はこれから苦労しそうです。
やはり何と言っても、金融緩和や財政出動だけでは、経済は本格的な回復軌道には乗ってきません。むしろ、金融緩和は時間稼ぎなので、この間にどこまで構造改革に踏み切れるか、財政再建に踏み切れるか、社会保障などの問題の抜本的な改革にメスを入れられるかどうかということなのですが、これは自民党の支持基盤の人たちの既得権益に絡む問題なので、本当にそこがチェックできるのかどうか、非常に難しいところです。
●安倍政権を待ち受ける「4つのハードル」
今後、安倍総理にとっては、なかなか難しいハードルが並んでいると私は見ています。そのハードルは、大きく分けると4つです。
政治スケジュールを追ってお話しすると、まず2015年4月に統一地方選挙があります。この統一地方選挙で自民党の議席をそれなりに維持し、勢力を維持するためには、4月の統一地方選の直前に、そ...