●個人・地域・企業の「三方よし」をもたらす逆参勤交代
皆さま、こんにちは。三菱総合研究所主席研究員の松田智生です。今日は、「逆参勤交代が日本を変える」というテーマで、これからの地方創生、働き方改革の未来についてお話ししたいと思います。
まず第1回は、逆参勤交代とは一体どういったものなのかということと、逆参勤交代にどんなメリットがあるかということについてお話しをしたいと思います。
江戸の参勤交代は、1635年に3代将軍徳川家光によって制度化されたものです。これは皆さんご存じのように、全国の藩主が一定期間、国元から江戸に滞在するということを制度化したものです。その結果、メリットが多方面で生まれました。全国で街道が整備され、江戸に藩邸が整備されました。制度をもってして、江戸に新しい人の流れが作られたということです。つまり、人材循環による国の活性化です。
では、令和の逆参勤交代とは一体何かというと、都市生活者による地方での期間限定型滞在です。人口が減少する中で、都市と地方、あるいは地方同士で人材を奪い合うのは不毛です。これからは人材の争奪ではなく共有です。そして、逆参勤交代した人が担い手になり、地域の課題解決に参加するということがこの狙いです。
江戸の参勤交代と令和の逆参勤交代を比較したものがこの表です。令和の逆参勤交代では人の流れが都市部から地方になり、そして、江戸に藩邸が整備されたようにこれからは地域にサテライトオフィスと住まいが整備されます。また、(江戸時代は)全国に街道が整備されたように、これからはデジタル田園都市、IT、DX、多方面のインフラ整備が起こるでしょう。
そうすると、この(スライドにある)ような暮らし方ができるわけです。夜は満天の星空を眺め、朝は鳥のさえずりで目が覚める。この逆参勤交代は、プラチナ社会での働き方改革、暮らし方改革、生き方改革、そして自分の仕事をするだけでなく、地域のために働く、あるいは地域の中高生の家庭教師をするといったような地域貢献にもつながるということです。
これは「三方よし」です。個人にも、地域にも、企業にもよいということです。
全国で北海道から九州まで、逆参勤交代の実証実験を展開していますので、その具体的な事例をご覧ください。(これからお見せする動画は、)長崎県壱岐市で2022年7月に行った「トライアル逆参勤交代」というものです。首都圏のビジネスパーソンが自腹を切って参加したものです。
このように、全国で実証実験を進めています。
●参加企業と受け入れ地域の双方にメリットを生む
では、この取り組みによって地域にどういったメリットが生まれるのでしょうか。
まずは、関係人口が増えることが挙げられます。観光以上、移住未満のリモートワーカーが増え、それが消費増につながります。生活者が1人増えれば、国内旅行26人、インバウンド10人に匹敵します。もう当分インバウンドは期待できないでしょう。ですから、一泊2日の国内旅行よりかは数日、数週間の逆参勤交代者が地域の消費を生み出します。次に、担い手です。販路開拓、DX、また収穫や草取りといった肉体労働、さらに地域の大きな課題の廃業問題に対しても担い手が増えます。そしてオフィス、住まい、ITのインフラ整備がされ、旅館、ホテル、交通機関の稼働率が高まるということで、地域にとってはいいことずくめです。
マーケットを見てみましょう。首都圏と近畿圏の大企業で働いている人は1000万人ほどいます。その1割が1ヶ月、逆参勤交代をすれば、消費ベースで約1000億円の消費を生みます。
今の関係人口の課題は、スモール・ボリュームで終わっていることです。こういった関係人口やワーケーションをする方は、大体がITベンチャー、フリーランス、意識の高い人、あるいは自分探しの若者やシニアに限定されます。このスモール・ボリュームの争奪戦を全国でしている。これが不毛だということです。
マス・ボリュームについては、例えば東京の大手町、丸の内、有楽町の「大丸有」地区には就労人口が約28万人もいます。上場企業の本社は約100社です。このマス・ボリュームを動かすことが日本にとって大きなうねりをもたらすということに...