●原子力発電所にミサイルが着弾したらどうなるのか
―― 皆さま、こんにちは。本日は鈴木達治郎先生に「原子力発電の戦争リスク」というテーマでお話をいただきます。鈴木先生どうぞよろしくお願いいたします。
鈴木 よろしくお願いいたします。
―― 原子力発電と戦争、あるいはテロのリスクということなのですけれども、今般もこのロシアによるウクライナ侵略で原子力発電所が占拠され、攻撃されるのではないか、どうなるのだという議論も起こっています。
非常に初歩的な質問で恐縮ですが、原子力発電所に通常のミサイルが着弾した場合はどうなるのでしょうか。例えば、いわゆるかつて原爆が爆発したような核爆発が起こるのか、あるいはどういう被害が出るのか、そのあたりはいかがでございますか。
鈴木 原子力発電所の核燃料では、基本的に核爆発は起こりません。しかし、われわれが経験したチェルノブイリ原発の事故とか福島原発の事故のように、中に入っている大量の放射性物質が大気中に拡散してしまうという事故は起こり得るということです。水素爆発は起こりますが、核爆発が起こるということはないのです。大量に入っている放射性物質が拡散してしまう。これが深刻な事故だということですね。
―― そうすると、やはりイメージとしては、例えば広島・長崎のような被害というよりは、チェルノブイリ原発や福島第1原発のような事象が起こってしまうということですね。
鈴木 はい、それが起こってしまうということです。
●原爆より原子力発電所のほうが圧倒的に核物質の量が多い
―― 原子力発電所がそのような被害に遭った場合、何が一番のリスクになるのでしょうか。
鈴木 これも基本的にはチェルノブイリ原発や福島原発と同じなのですが、核物質は実は原爆よりも原子力発電所のほうが圧倒的に量が多いのです。
―― どのぐらい違うものなのですか。
鈴木 大体1000倍とか1万倍です。例えば、核兵器に入っている核物質の量は大体何キログラムあるいは何十キログラムというように、キログラムのオーダーです。ところが、原子力発電所に入っている核燃料はトンのオーダーです。それだけでも1000倍です。さらに出力が高いものになってくると、その10倍とか、もっというと1万倍、10万倍ぐらいの放射性物質が中に入っていることもありますので、量的に非常に多いのです。ただ、例えばチェルノブイリ原発でも福島原発でも、あの中に入っているもののうち、実際に外へ出てきた放射性物質は数パーセントしかないのです。
―― 数パーセントなのですね。
鈴木 福島原発の場合は、大体3パーセントぐらい、あるいはもっと少ないかもしれません。大体そのぐらいで、まだ福島原発の中には大量の放射性物質が入っているわけです。しかし、わずかに出てきても、あれだけの被害を起こすのです。
チェルノブイリ原発の場合でもそうなのですが、大量の放射性物質が大気中に出てしまいますので、環境汚染、それから場合によってはもちろん人に与える健康リスク、さらに食べ物への汚染も後々出てくるかもしれません。そういうものへの汚染も考えられますし、もう住めなくなってしまう地域も出てきますので、住民の避難などで莫大な損害が起こるということです。
―― そうしますと、核爆発では、いわゆる原爆の時のように熱線のような被害はないけれども、福島第1原発の事故の時も、万が一の場合には東日本に誰も住めなくなるという議論もされたことがございましたが、その規模の地域で被害が生じてしまうということになるわけですね。
鈴木 そうですね。原発事故は、どういう状況で起こるかによってもちろん変わってくるのですが、原発は時間をかけて反応するので、半減期の割と長い放射性物質が原爆よりも多いのです。そのため、環境汚染への影響も原爆より長い期間続く。そういうリスクがあるということです。
―― 広島・長崎などですと、爆撃された直後は「もう草木も生えない」などと言われたのが、その後比較的早く蘇ったそうです。原発事故になると、そういうわけにはいかなくなるということになりますね。
鈴木 そうですね。チェルノブイリ原発でも福島原発でもそうですが、なかなか戻って来られない地域があるということです。
●「非人道的なことはやらない」という国際常識が無視されるのが戦争
―― そのような、万が一戦争などで原子力発電所が攻撃対象になった場合にはそういうことが起きるということですね。一般論として、「原子力発電と戦争のリスク」ということを考えた場合に、どういうことにわれわれは留意しなければいけないのでしょうか。
鈴木 原子力発電所をつくる当初から、戦争が起こったとき(攻撃されたら)困るということで、いわゆる人道条約であるジュネーブ条約で、ダムや原子力発電所の...