●リスクを高める原子炉の集中立地
―― それではロシア・ウクライナ戦争の事例で、戦争で原子力発電にどのような被害が起きるのかという具体的なお話をさらに詳しくしていただいてもよろしいでしょうか。
鈴木 分かりました。このスライドはウクライナ原発の地図です。実はまだ(2022年)3月の時点での地図なのですが、ザポロジェ原発の2基が動いていました。これは今(2022年10月時点)、全部止まっていますが、実はウクライナの国境に結構近いところにあります。チェルノブイリ原発は閉鎖中なのですが、ここも占拠されてしまったということになっており、国境の北側から近いのです。
そういうことで、問題はザポロジェなのですが、原子力発電所が6基もあるのです。福島原発もそうでしたが、集中立地していると、原子力発電所の1基に深刻な事故が起こると、なかなか他の原子力発電所の制御が効かなくなってしまいます。それで連鎖的に炉心溶融事故が起こってしまうということもあるので、集中立地しているということは非常にリスクが高いということです。
―― 要するに、人間がもう入れなくなってしまってコントロールできなくなるということですね。
鈴木 そうです、建物に近づけなくなってしまいますので。950万キロワット級のものが6基あるのは、ヨーロッパで最大です。日本のことですが、実は新潟県の柏崎刈羽原発に820万キロワットのものが7基あるというのが世界最大です。福島原発も470万キロワットのものが6基ありましたし、フランスの原子力発電所6基もザポルジェ原発と同じようにかなり大きな規模です。
規模が大きいということは、その分、中に入っている放射性物質の量も大きいということです。当時チェルノブイリ原発の10倍の深刻な事故が起きるかもしれないというニュースが流れましたが、規模にするとそれぐらいの放射性物質が中にあるということです。ということで、集中立地は怖いなと思います。
●原子力発電所の構造にみるロシアと日本の違い
鈴木 それから次に構造を見ていただきます。格納容器は1.5メートルから2メートルくらいの厚い鋼鉄の壁なので、一応、安全規制ではジェット機が墜落しても大丈夫だといわれているのですが、ここをもしミサイルで一発ではなく何発も攻撃された場合、当然やられてしまう恐れがあります。
大事なのは使用済燃料ですが、ロシアの原子力発電所はこの使用済燃料プールが格納容器の中にあるので割と守られているのです。
―― 今、ロシアとおっしゃいましたけれど、ロシアといわゆる西側とではタイプ(編注:原子炉の構造)が違うということなのですね。
鈴木 そうです。同じ軽水炉でもロシアのケースでは少しデザインが違っています。日本でよく使われているのはPWR軽水炉で、使用済燃料プールは格納容器の外にあります。格納容器の中に圧力容器と原子炉があるのですが、格納容器に旅客機が墜落しても大丈夫といわれており、通常は壊れない前提になっています。
問題は外にある使用済燃料プールです。これが福島原発の時に事故で全部壊れてしまって冷却ができなくなり、このままだとここから放射性物質が大量に出るのではないかという恐れがあったということです。福島原発の場合は4号機です。
―― それこそ給水で非常に頑張ったということですね。
鈴木 そうです。先ほどいったロシアの原子力発電所では、使用済燃料プールが中に入っているので多少は守られているということです。
●ザポリージャ原発の被害とIAEAの査察活動
鈴木 それで、3月にザポリージャ原発が占拠された時のビデオがあり、そのビデオを分析したニュース番組で報じられたのですが、ニュースではこの訓練センターが火事になったといわれたのです。実際にビデオを見ると、送電線もやられているし、監視カメラも(スライドの)丸がついているところは全部攻撃されているのです。怖いのは、原子炉の1号機と6号機にも弾痕があったことです。通路にも弾痕があるのですが、要するに弾が飛んできているということなのです。
―― 本当に少しずれていたら、ということになるのですね。
鈴木 集中的に狙われていたら危ないことですし、もしそういうことがあると原子炉に深刻な事故が起こったかもしれないということで、危機一髪だったとニュースでは報じられていました。
―― はい。
鈴木 それから、最近IAEA(国際原子力機関)が現地査察団として入ったのですが、IAEAのチームが見ているザポロジ...