株主代表訴訟の仕組み
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善管注意義務は重い、「名ばかり役員」は危険、保険は重要
株主代表訴訟の仕組み(2)株主代表訴訟の6つの教訓
経営ビジネス
河合弘之(さくら共同法律事務所 所長・弁護士/映画監督)
安易に「名ばかり役員」に就任するのは危険、取締役の善管注意義務は大変重いので、やるからには本気でコミットする……など、「株主代表訴訟」のリスクに備えるために大切な6項目を紹介する。その事例として紹介されるのは、東電株主代表訴訟。詳細な訴訟の中味を見ていくうちに、「株主代表訴訟」の実際が見えてくる。(全2話中第2話)
時間:12分47秒
収録日:2022年9月30日
追加日:2022年12月19日
≪全文≫

●地震本部による長期評価に異を唱えた東電役員


 (今回は)判決の内容について、簡単にお話ししていきます。

 まず時系列としては、政府の「地震本部」による長期評価というものがあります。「三陸沖から房総沖で30年以内に20パーセントの確率でM8クラスの津波地震がくる恐れがある」と発表されています。

 政府の地震本部は、日本の最高レベルの地震学者を集めた審議会です。そこで長期的な予測を発表しています。東大教授、東工大教授その他、超一流の地震学者を集めて、徹底的に審議した末に出してきたのが長期評価でした。

 これが出たため、東京電力では「これは大変だ」ということで、子会社の「東電設計」の若い優秀な技術者たちに「実際にどういう津波が来るか、シミュレーションせよ」との指令を下しました。その結果、「15.7メートルの津波が来る恐れがある」という報告がありました。これは非常に深刻なことです。普通の原発の重要な安全設備は海抜10メートルまでのところにあるので、15メートルもの津波が来たら全部水浸しとなり、アウトになってしまいます。

 そのように、非常に深刻な報告を受けた武藤取締役は、「なんだ、それは。直ちには信用できない」として、長期評価の信頼性について土木学会に調査を再委託します。これを裁判では「武藤決定」と呼んでいます。


●「不作為」のもとで起こった事故、経営陣の姿勢


 委託した武藤氏側は、再調査の結果が上がってくるまでは「何もしなくていい」とします。結果が上がってくるまでに、とりあえずの緊急措置をしておけば良かったわけです。どういうことかというと、大げさな堤防を立てるようなことではなく、防水工事(水密化)により重要安全機器の防水をきちんとやっておけば良かったはずなのですが、そういうことも一切しないという「不作為」をしました。これが、判決の中では「本件不作為」ということになります。その不作為が続き、すなわち土木学会からの再調査報告が上がってくる前に、この事故が起こってしまったというわけです。

 他方、これは武藤氏と武黒氏に関わることです。武藤氏が握りつぶした方針については、上司である武黒氏も報告を受けていたため、承知をしていました。

 もっと上の社長(清水氏)・会長(勝俣氏)はどうかというと、「御前会議」と名付けられた重...

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