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真か偽か?役に立つか立たないか?面白いか面白くないか?

知識の3類型

曽根泰教
慶應義塾大学名誉教授
情報・テキスト
知識には3つの類型がある、と曽根泰教氏は語る。知識は、「真か偽か」「役に立つか立たないか」「面白いか面白くないか」で分けられるという。一体どういうことだろうか。
時間:11:13
収録日:2015/01/22
追加日:2015/02/20
カテゴリー:
≪全文≫

●学者が相手にしている知識は「真か偽か」が問題


 「知識の3類型」というと、大上段に振りかぶった大哲学論争のような感じがするかもしれませんが、今回は「知識とは何か」をざっとお話ししたいと思います。このシリーズでも齋藤ウィリアムさんが、「経験を知恵のレベルまで上げていくことが重要だ」とお話になっていました。それとも少し関係がありますが、それ以前に、知識には3種類あることをお話しします。

 大学の研究者や学術論文を書いている人などは、知識を「信頼できる知識」と呼ぶだろうと思います。そのような場では、「真か偽か」、正しいか正しくないかが問われるためです。「STAP細胞はあります」と言っても、存在が証明されなければ、STAP細胞は存在しないのと同然なのです。

 ただし、STAP細胞の経緯で皆さん気が付いたと思いますが、ネイチャーに書いた論文が問題になりました。真か偽かが知識の重要な基準ですが、その発表形態は依然として論文なのです。それはともかく、1番目は、学者が相手にしている知識で、真か偽かを問題とし、実験によって証明できるものです。


●「役に立つか立たないか」が問われる知識も多い


 2番目は、「役に立つか立たないか」が問われる知識で、たくさんあります。ビジネススクールやロースクールで教わるのは、真か偽かは明確に証明できないかもしれないけれど、経営には十分役に立つ知識、情報です。真か偽かと、役に立つかどうかの違いは、例えば、経済学部の先生が唱えるミクロ経済学のモデルと、ビジネススクールの先生が行う経営のケースメソッドの違いにも関係します。

 最近よく、国民の税金を使っている以上、社会の役に立つことをしていると証明できない科学者には、研究費を渡さなくてよいのではないか、という議論があります。この「役に立つ」にはさまざまなパターンがありますが、プロフェッショナル・スクールは、役に立つ知識をまとめて教えている所と言えます。


●面白いか面白くないかで判断される知識もある。


 3番目は、普通、知識とは呼ばないのですが、「面白いか面白くないか」で判断されるものがたくさんあります。例えば、テレビ、ゲーム、アニメ、小説などです。ベストセラー小説は、おそらく面白いから読む人が多いのでしょう。

 一般的には、数学的な証明などに興味を持つ人はそれほどいませんが、真か偽かを追究することが面白いと思う科学者も数多くいます。数学の美しさに喜びを感じる、あるいは、戦争中に一生懸命、天体望遠鏡や顕微鏡をのぞく人がいても不思議ではありません。そこに面白さを感じる人もいるのです。

 ただ、現代の世の中には面白いことが溢れすぎています。ですから、中学校の先生などは大変でしょう。ゲーム、アニメ、マンガに匹敵する知識を学生に教えることができるのか。今の時代、学生の興味を引き付けるのは、なかなか難しいことだと思います。


●医者、職人や経営などのノウハウも知識である


 もう少し詳しく説明すると、真か偽かが問われる知識の中で、われわれが確実に手に入れているのは、「法則的な情報」です。ニュートンは、リンゴが落ちることに気付きました。見渡せば、鉄の玉も、石も、上から下に落ちていきます。例外のない普遍的な法則といえるでしょう。1個でも下から上にリンゴが飛んでいったら、一般法則を否定する大変な発見になりますが、ニュートン的世界では例外はありません。ですから、初期値を与えれば、明日の月の位置も分かります。

 ですが、社会科学の大半は普遍法則ではなく、法則とはいうものの、確率的にはほぼ起きるでしょう、という程度の話です。それとニュートンのような古典力学の世界とは、やはり差があるのですが、ここから先は専門的な話になりますので省略します。マイケル・ギボンズという学者は、「モード1」と定義された、かつてのニュートン的科学や法則の世界に対して、「モード2」を提唱しています。モード2では、トランスディシプリナリー(領域横断的)な世界、自己言及的な世界、観察することで対象が動く世界から、自然科学においても非常に社会科学に近いことがあると主張しているのですが、これに関しては、今日は詳しくお話ししません。

 役に立つか立たないかが問われる知識には、難しい問題があります。例えば、ビジネススクールのケースは1回限りのことではないか。経営者が経営について話すことは、自慢話にすぎず、一般化できないのではないか。このように言える部分もあるということです。

 ですが、私はそうではないと思っています。例えば、器用で経験豊富で、術例が多い「手術の上手な医者」と、ネイチャーやランセット、ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに載せた論文の数が多い「良い学者」と、どちらの手術...
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