●ギリシャ危機でユーロとドルの不足が発生
3番目のテーマは、ユーロの構造問題です。私はこれを「ユーロの十字架」と呼んでいますが、2010年代の欧州ソブリン危機がどのような構図の中で起こってきたのかをご説明したいと思います。
2010年にギリシャ危機が勃発した時、私は、ユーロ圏、つまり欧州に二つの不足問題があることを指摘しました。一つはユーロ不足、もう一つはドル不足です。
まず、ユーロ不足とは、ギリシャ、スペイン、イタリアをはじめとした欧州周辺国の政府に国債を償還するだけの十分な財源、つまりユーロ建ての収入がないことを指します。取りも直さず、これは欧州における財政赤字問題です。
もう一つのドル不足は、全く異なるところからでてきた問題で、欧州系金融機関が米ドルを調達できなくなる事態に直面していました。この問題の遠因ですが、一つは、新興国をはじめとした世界各国で欧州系金融機関がドル建て融資を行っていた背景があります。いうまでもなく、欧州諸国は昔の覇権国家で、世界全体でプレゼンスが大きかったわけです。そういった時代背景もあって、欧州系金融機関が世界各国、とりわけブラジルをはじめとした新興国あたりで、ドル建て融資を盛んに行っていました。
なぜドル建て融資が多かったかというと、そういった新興国や、当時アジアもそうでしたが、要するに米ドルペッグ制(自国の貨幣相場を米ドルと連動させる固定相場制)を採用している国が多かったからです。ですから、借入を行うに当たってはドル建ての融資を好んでいました。
アメリカ系の金融機関がドル建て融資を行っているのであれば、それほど問題ありませんでしたが、歴史的背景から欧州系金融機関がそういった国々でプレゼンスが大きく、ドル建て融資が行われていたのです。ところが、欧州系金融機関は、米ドルがマザー通貨ではありません。要するに、アメリカ系の金融機関は、アメリカの預金者がドルの預金を置いていますので、ドル資金を豊富に持っています。しかし、欧州系金融機関はアメリカの金融機関ではないため、アメリカの預金者がドル預金をたくさん置いてくれているわけではありません。そのため、欧州系金融機関がブラジルやインド、インドネシアといった国でドル建て融資を行う際は、ドル資金を市場調達しなければならず、潜在的に大きなドル調達のニーズを持っています。...