●急進左派連合政権の誕生でユーロが値崩れ
今シリーズ最後の項目は、「ギリシャ問題」です。足元でユーロが値崩れしている直接的な理由は、2015年1月の総選挙の結果、ギリシャで急進左派連合の政権が誕生して、債務再編の問題が出てきていることにあるといえると思います。
そもそもユーロにギリシャが加盟したのは、2001年です。ユーロに加盟するに当たっては、さまざまな条件を満たす必要があります。例えば、インフレ率を他の国に比べて過度に高い水準にしないことが求められます。また、財政赤字は、基本的に経済規模の3パーセント以下まで減らさなければなりません。政府債務残高の水準は、経済規模の60パーセント以下と決められています。こういった条件を乗り越えて初めて、ユーロに加盟できるのです。
ギリシャも、2001年にユーロに加盟する際、このような努力を行ってきたとみられていました。ところが、2009年10月にギリシャで政権交代が起こったことをきっかけに、財政赤字が統計操作で低く見積もられており、実態はより大きかったことが発覚しました。当時、財政赤字は経済規模の5パーセントといわれていましたが、実は13パーセントだったのです。そういったことを受けて、2010年1月に欧州委員会が財政に関する統計の不備を指摘して、ギリシャ危機が勃発しました。
さらにはアイルランド、ポルトガルなども結果的にEU、IMF(国際通貨基金)へ支援を要請することになり、ギリシャだけの危機にとどまらなくなってしまいました。こういった事態を受け、EUやIMFがギリシャ支援に動き、2010年5月に第1次支援、2012年に第2次支援を行っています。
そうした努力の甲斐あって、ギリシャ問題、欧州ソブリン危機は鎮静化に向かってきていたのですが、今年(2015年)1月の総選挙で急進左派連合が勝利し、アレクシス・チプラス首相とヤニス・バルファキス財務大臣が就任したことで、EU、IMFがギリシャ支援の条件としていたさまざまな財政緊縮案に異議を唱えることになってしまったのです。そのために、EU、IMFがさらなる追加支援をするかどうか、金融支援を延長するかどうかが問題化しているのが、今の状態です。
●市場はギリシャ危機を楽観視している
足元では、2月16日にユーロ圏の財務大臣会合「ユーログループ」の緊急会合が行われ、ギリシャとの妥協点を模索しましたが、交渉は決裂しています。また2月18日には、ECB(欧州中央銀行)が、ギリシャ中央銀行に向けて拡大してきた金融支援枠の継続を検討し、さらに20日、もう一度ユーログループの会合が行われることになっています。ここまでに、ギリシャからEUに正式な支援延長要請がなされ、条件面で折り合うことがなければ、ギリシャの資金繰りが行き詰まるリスクは高まってしまいます。
ところが、市場はギリシャ危機に対してそれほど過敏には反応しておらず、どちらかというと楽観している傾向がうかがえます。この理由にはいくつかあると思いますが、一つは、そもそもギリシャ国民がユーロ離脱に反対していることが挙げられます。
アンケート調査によると、ギリシャ国民の約7割はユーロ残留を望んでいます。ですから、さすがに急進左派連合政権のチプラス首相も、いくらEUやIMFとさまざまなタフネゴシエーションをしても、最終的にユーロからの離脱を選択することは難しいだろうと思われています。これが一つ目の理由です。
二つ目に、ギリシャ国債をはじめとした債務は、2、3年前は民間投資家が多く保有していたのですが、現在はECBやEUなど公的部門の保有が増えており、ギリシャ危機がそのまま市場の危機に伝播しにくいことがあると思います。
三つ目の理由として、過去3年ほどで、さまざまなセーフティーネットがヨーロッパで整備されてきていることがあります。例えば、ESM(欧州安定メカニズム)という支援の枠組みがあります。あるいは、欧州系金融機関のドル不足問題を解消するため、ECBとFRB(連邦準備制度理事会)が通貨スワップ協定を結び、欧州系金融機関がユーロ建ての資産を担保にドル資金を調達できるスキームを構築しています。これらが、市場が比較的楽観している理由ではないかと思います。
●預金の取り付け騒ぎには注意が必要
ただ、注意しなければならないのは、さまざまな通貨システム、金融システムは、預金の取り付け騒ぎに対して非常に脆弱であるという点です。今日の通貨システムは信用通貨を供給していますから、預金者が一気に銀行に押し掛けて、預金を引き出してしまうと、銀行は融資をすぐには回収できないために資金が行き詰ってしまいます。ですから、預金の取り付け騒ぎが起こってしまうと、通貨危機、金融危機が一気に...