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GDPで測り得ないものにどうコミットしていくか

GDPに代わる日本の目標

小林喜光
東京電力ホールディングス株式会社 取締役会長
情報・テキスト
混迷が続く日本経済。世界的にはCO2の大量排出という地球環境の問題を抱え、日本は今後人口が減少していく。「アベノミクスは経済成長ばかり唱えるが、永遠の成長などあり得ない」と語るのは、三菱ケミカルホールディングス社長・小林喜光氏。では今後、日本は何を目標とし、いかなる道を歩むべきなのか。
時間:10:04
収録日:2014/09/01
追加日:2015/04/05
キーワード:
≪全文≫

●混迷が続く日本経済の方向性は二つ


―― 日本の場合は、予期せずにグローバル化やデジタル化が先に来てしまったので、それを率いていく大きいサイズの企業の経営者は、本当に大変ですよね。

 黒船がやって来て、桜田門外の変が起きて、結局、抵抗勢力もいっぱいいたけれども、20年経って明治10年を過ぎたら、また違う日本のスタートで、今も似たような感じですよね。

小林 今はそういうところかもしれませんね。この20年でものすごく地盤沈下が進み、およそアメリカや中東と比べたら、神の恵みである油も何にもないですしね。3・11で今やエネルギーコストもすごく上がってしまい、原発も使えないし、自然エネルギーもコストが高い。また、エレクトロニクスは、コンシューマー部分をかなり壊滅させられて、自動車産業と機械ベース、インフラベースの産業辺りがメインになっている。一番重要である健康関係や医療関係、非常に重要な素材としてのケミカルや鉄もそれほど強くないこの日本にとって、基本となる経済ベースの戦いにおいて、かつてのGDP世界第2位の地位をどこまで復活できるかは、そう簡単ではないですね。

 ですから今、国民には2通りあると思うのです。やはり「世界に冠たる者」にもう1回戻りたいという人と、他方、ブータンのように「幸せであればいいだろう」と、中途半端に思う人の2通りです。何も今さらいろいろと新しいものを買う必要もないし、原発をやったり、わけの分からない防衛などにお金を使ったりするよりはむしろ、やはり基本は、そういうこと自体が本当に自分たちを守れるかどうかは別として、「今ここにあるものを静かに皆で分け合う」という、すなわち「成長の神話など終わったのではないか」という人です。このどちらかになりつつあるような気がするのです。


●経済成長よりも地球的規模での貢献にコミットする


小林 では、僕は一体どちらなのかというと、非常に悩ましいです。昼間の世界というか公的な世界では、「成長、成長、GDP」というけれど、永遠の成長はないだろうと思います。この100年の間にここまで急激に人類が成長し、CO2をこんなに出しておいて、それでまだ行くのかということです。GDPが永遠に2パーセントずつ成長していくという絵を描くこと自体、愚かだと思うのです。どこかで国は止まらなければいけません。

 特に、日本などは人口も減っていきます。そうであれば、むしろこちらの方もよくよく考えながら、何もそれを無理やり増やすのが果たして正しいのかということです。老齢化して7000万、6000万、4000万となってもいいではないかという考え方があるのではないでしょうか。

 むしろ「日本人とは一体何なのか」ということをもっと追い求めて、「ハピネスや快適さとは何なのか」ということをもっと考えることが大事だと思います。人類はどうせいずれは老化していきますし、地球をどんどん汚していくのですから、自然に逆らうことの方がよほど罪悪です。原発も悪いけれども、CO2を増やすのはもっと悪いのではないでしょうか。クライメート・チェンジ(気候変動)で大型台風が次々と来るような世界で、ただ成長し、ただ悪くするのを加速するのかということです。

 あるいは、もっと冷静に考えて、むしろこれが事実なのだと受け止めるのであれば、もちろん地球的規模でものを考えなければいけないけれども、それに貢献するようなところにきちんとコミットしながらやるということをもっと考えるべきですし、あるいは、これとこれの足し算ぐらいでやっていくのがよいと思います。ただ、ここが悩ましいのです。今、安倍政権は経済成長ばかり言っているではないですか。


●バーチャルなハングリーネスを喚起するために


―― そういう意味では、70年代の日本に戻る話ですよね。というのは、1回焼野原にされたあと、「ものを輸出しないと飯が食えない」という、多分あの焼野原の原体験があって、日本はあれだけ経済成長したのですよね。しかし、小林社長が言われるように、これだけ豊かになってしまったあとに、「もう1回70年代をやりましょう」というような話は、相当難しいだろうと。

小林 本当に、若い人の方がもう、ハングリーネスがないのです。では、疑似的にでもいいから、バーチャルなハングリーネスをどう喚起するかということになると、それは難しいと思います。

―― 先ほど小林社長が言われた、ゲームをやり、ゲームプレーヤーとなることで、シナリオを書き、トランスフォーメーションをする楽しさのような部分でしか、もうないのですよね。衣食住はもう満たされています。

小林 ものは満たされている人がもうほとんどではないですか。確かに年収200万の人が増えたと言うけれど、飢え死にはしない。でも、この人たちを引き上げるのはいいけれど、引き上げながら、より高度なこと...
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