ロシアの中東政策
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
強い影響力を持つロシアの中東政策
ロシアの中東政策(前編)欧米が持たない「てこ」
山内昌之(東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授)
プーチン政権の国際的影響力低下を指摘する見方もある中、中東史を専門とする歴史学者・山内昌之氏(東京大学名誉教授)は、ロシアの中東に対する影響力はますます強くなっていると見ている。中東という駒を巧みに使い、アメリカやEUの中東地域に対する影響力を阻止しようとするプーチン、ロシアの外交の特徴とは何か。ロシア外交史にも触れながら国際情勢のひだに分け入る。(前編)
時間:13分38秒
収録日:2015年3月24日
追加日:2015年4月11日
カテゴリー:
≪全文≫

●中東に影響をもたらす「てこ」を持つロシア


 皆さん、こんにちは。今日は、プーチン政権と中東という問題について少し考えてみたいと思います。ウラジーミル・プーチン大統領の政策は、ウクライナやクリミアをめぐって欧米の制裁を受けているために、ロシアとプーチンの政権基盤や政策の説得力は弱められているという考え方があります。そして、ロシアは国際的に孤立し、その国際的な影響力も弱体化しているということを、しばしば指摘する向きもあります。確かにロシア経済は停滞している面もありますし、ロシアだけではなく石油価格が全体的に下がっていることもロシアに対して打撃だ、という説もあるのです。

 しかし、プーチンは中東において、以前と同じように決してその力や影響力を失っていないように思います。むしろロシアの権力や影響力は、中東において、この半年間でますます成長したかのように見えるというのが私の考えです。なぜならば、モスクワは中東に対して、その行く末を左右する鍵となる地域のファクターを非常に多く持っており、それによって、レバレッジ、物事を動かしていくてこを持ち、あるいは、それを高めているかのように思えるのです。すなわち、ロシアの安全保障との関係で、中東においてアメリカやEUの目標の促進を阻止し、邪魔をするようなレバレッジをロシアは持っているのです。


●国際社会での影響力発揮に中東を利用するロシア


 では、それは何かということについて考える前に、少しここで外交史をおさらいしておきます。

 プーチンは、対米関係やあるいは日本を含むようなアジアとの関係、またはEUとの関係など、全体としてより大きな国際システムや国際関係の中で、相対的に自分の権力やパワーをどこに置けば一番影響力が発揮でき、有利な立ち位置を確保できるかということや、それを工夫したり強める手段として、ロシアの中東政策や中東での姿勢を捉えている節があります。

 思い起こせば、1980年代のミハイル・ゴルバチョフの外交は、EUやアメリカとの接近によって、従来の冷戦下においてロシア共産党国際部やソビエト連邦の外務省が伝統的に図っていた冷戦の戦術に終止符を打ちました。

 ソビエトの冷戦構造とは、例えば、中東において西側と妥協やバーターを図ることによって、中東で仲介役を果たし、地域紛争を自分に有利なように操作し、それによって...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
内側から見たアメリカと日本(1)ラストベルトをつくったのは誰か
日本でも中国でもない…ラストベルトをつくった張本人は?
島田晴雄
中国共産党と人権問題(1)中国共産党の思惑と歴史的背景
深刻化する中国の人権問題…中国共産党の思惑と人権の本質
橋爪大三郎
日本人が知らない自由主義の歴史~前編(1)そもそも「自由主義」とは何か
消極的自由と積極的自由?…なぜ自由主義がわかりづらいか
柿埜真吾
クーデターの条件~台湾を事例に考える(1)クーデターとは何か
台湾でクーデターは起きるのか?想定シナリオとその可能性
上杉勇司
日本の財政政策の効果を評価する(1)「高齢化」による効果の低下
高齢化で財政政策の有効性が低下…財政乗数に与える影響
宮本弘曉
財政問題の本質を考える(1)「国の借金」の歴史と内訳
いつから日本は慢性的な借金依存の財政体質になったのか
岡本薫明

人気の講義ランキングTOP10
内側から見たアメリカと日本(6)日本企業の敗因は二つのオウンゴール
日本企業が世界のビジネスに乗り遅れた要因はオウンゴール
島田晴雄
歴史の探り方、活かし方(1)歴史小説と史料探索の基本
日本は素晴らしい歴史史料の宝庫…よい史料の見つけ方とは
中村彰彦
熟睡できる環境・習慣とは(1)熟睡のための条件と認知行動療法
熟睡のために――認知行動療法とポジティブ・ルーティーン
西野精治
習近平―その政治の「核心」とは何か?(1)習近平政権の特徴
習近平への権力集中…習近平思想と中国の夢と強国強軍
小原雅博
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
戦史に見る意思決定プロセス~日本海軍の決断(1)日本海海戦・東郷平八郎
なぜ東郷平八郎はバルチック艦隊を対馬で迎え撃ったのか?
山下万喜
戦国武将の経済学(1)織田信長の経済政策
織田信長の経済政策…楽市楽座だけではない資金源とは?
小和田哲男
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(7)不動産暴落と企業倒産の内実
不動産暴落、大企業倒産危機…中国経済の苦境の実態とは?
垂秀夫
日本の財政と金融問題の現状(1)財政赤字の何が問題か
日本の財政は本当に悪いのか?将来世代と金利の問題に迫る
木下康司
心と感情の進化(1)そもそも「心と感情」とは何なのか
「心と感情」とは何か、行動生態学から考える大事な問題
長谷川眞理子