●パイプライン再編で塗り替えられる資源地図
皆さん、こんにちは。
前回はロシアとトルコのエネルギー関係を通して、トルコのしたたかさとロシアのしぶとさに触れたところで終わりました。そして、「ブルーストリーム」から「ターキッシュストリーム」という天然ガスのパイプラインの流れについてもご説明しました。ブルーストリームを拡大したターキッシュストリーム・プロジェクトは、完成すれば630億立方メートルの天然ガスがトルコ・ギリシャ国境まで運ばれ、その先はロシアのガスプロムが南欧のクライアントに配分する予定としています。
その際にトルコは、ロシアから二つの約束を取り付けたと伝えられています。一つは2015年の石油価格を6パーセント下げること。もう一つは、ブルーストリーム経由で30億立方メートルの天然ガスをトルコに追加的に供給することだといいます。つまりトルコは、新設されるパイプラインで年間に供給される630億立方メートルのうち、140億立方メートルは自国消費にまわせるものと期待しているのです。
このような楽観的、ある意味「虫のいい」ともいえる考えがそのまま実現するかどうかは別として、トルコのガス消費は2014年で480億立方メートルですが、もしも140億立方メートルの新たな提供がかなう日がくれば、トルコのエネルギー事情は大変好転します。こうなると、トルコではロシア産ガスへの依存率がますます増えるのですが、依存する側のトルコが決してそこを交渉の不利な材料にはしていないのが、したたかと呼ばれるゆえんです。トルコは一方でロシア経済の弱体化や孤立を見透かしています。トルコのエネルギー大臣自身、「レバレッジを効かせているのはトルコだ」と、ガス価交渉などで有利な立場にあることを認めている節もあります。
●計画の裏で進んだトルコの原発開発
結果的にはウラジーミル・プーチン大統領が6パーセントの値引きを公言しましたが、おそらくトルコは満足せず、15パーセントの値引きを密かに要求するだろうという観測が、トルコの各メディアには流れています。ロシアの提示した2倍以上のパーセンテージをさらに割り引けと言うわけで、このあたりの虚々実々の駆け引きは、なかなか見応えがあります。
ロシアとトルコ間のエネルギー関係は、このように緊密さを増していますが、もう一つの重要なシンボルが、地中海沿岸のメルシンという町に造られるアックユ原子力発電所です。ロシアの国営原子力企業ロスアトムが受注し、200億ドル規模での建設が見込まれています。こうした原発の開発において、その設立と建設承認の流れは、プーチンのトルコ訪問日時やターキッシュストリーム計画の導入と、誠に軌を一にしていると言わなければなりません。
野党議員の一人は、「ロシア・トルコの両国は、理由は異なっているが、共にEUから孤立している。だから、一緒にいることで孤独を癒すのだ」と述べるとともに、「南流計画(サウスストリーム・プロジェクト)はロシアとトルコを一緒にするだろうが、トルコのロシアへのエネルギー依存は高まってしまう」とも付け加えています。
いずれにしても、ロシアがアメリカやEUに対して中東政策において優位に立つための「駒」ないし掛け金のチップとして、トルコは非常に有利な材料になっていることが言えます。
●ロシアとイランを結ぶ長く稠密な経済の絆
さらにロシアは、イランに対しても財政援助等々を行うことで、財務・金融面におけるパートナーを自認しています。西欧の制裁を受けているイランはさまざまな金融決済が自由に行えなくなっており、それを助けることがロシアの名目です。
具体的には2014年、ロシアとイランは200億ドル規模のイラン製石油とロシア物品のバーター交渉を、二国間で直接行ったものと伝えられています。ただし、条件などが折り合わなかったために、この取引は決して完成したとは言えません。いずれにしても油価の値下がりのあおりを受けていることもあり、イラン・リアルもロシア・ルーブルも国際的に非常に割を食っている通貨です。その現状にも関わらず、双方は手を携えています。
歴史をさかのぼれば、16世紀から18世紀のサファヴィー朝、18世紀末から20世紀初頭のガージャール朝、革命以前の最後の王朝であるパフラヴィー朝、そして現在のイスラム共和国に至るまで、ロシアとイランは常に経済的に固く結び付いており、互いに重要な貿易易相手国として存在してきました。二国間に存在する強い経済的なロジックは、互いに互いを必要としていることです。
ロシアとイランの関係には、非常に原始的なものがみられます。第一には、それがバーターで行われること、そして二番目に、決済が国際通貨のユーロやドルではなく、ルーブルやリ...