サウジアラビアがイエメンを空爆した背景
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
ハウシーやイラン革命防衛隊はレッドラインを越えた
サウジアラビアがイエメンを空爆した背景
政治と経済
山内昌之(東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授)
イランは、ローザンヌ合意で巧みな外交力を発揮し、中東の地政学を大きく変動させつつある。しかし、中東には歴史的な「怨恨ゲーム」が根付いているため、問題は複雑だ。中東・イスラーム地域研究、国際関係史を専門とする歴史学者・山内昌之氏が、沸騰する中東情勢、失われた秩序回復への可能性について解説する。
時間:11分03秒
収録日:2015年4月7日
追加日:2015年4月17日
カテゴリー:
≪全文≫

●ローザンヌ合意にみるイランの外交的力量


 皆さん、こんにちは。前回に引き続き、イランとアメリカ、あるいはイランの地政学的な問題について考えてみたいと思います。

 イランが、現在の中東において地政学的な野心を持っているということは、この間の動きでますます明らかになっています。そもそも、今回のローザンヌ合意によって、イランの核武装化という中東最大の脅威が短期的には抑えられたにしても、イランのレバノン、シリア、イラクにおける優位性や影響力には、全く揺るぎないものがあります。むしろ、アメリカに核の平和利用や濃縮されたウランの所有権を既成事実として認めさせたイランの外交的力量は、今後の南レバノンのヒズボラ、シリアのアサド政権、そしてイラクのアバディ政権といったシーア派系のパワーが、アラブのスンナ派の多数派と対決する際に、格好の有力な材料になります。

 また、イランとシーア派との間に、シーア派という宗派を丸ごと浄化して一掃しようとする宗教浄化(セクタリアン・クレンジング)の動きを繰り広げているイスラム国(IS)の存在があります。このISと、もう一方において対決しているのはアメリカです。すなわち、イランは今回の合意によって、ISと対決するアメリカにも恩を売るようなセットをつくり上げたのです。それに引き替え、スンナ派のアラブの国々やそれらの国々のキーパーソンや政治指導者たちの分裂や雲散霧消ぶりは、誠に目を覆いたくなるほどの惨状です。


●サウジアラビアのウィークポイント-イエメン


 もちろん、このスンナ派の国々も、黙って座視しているわけではありません。アブドラ国王が亡くなり、後を継いだサルマン国王のサウジアラビアは、陸軍の大兵力を動員し、かつ戦闘機の運用も行っています。そして、エジプトや湾岸諸国の一部からの戦闘支援も受けながら、イエメンに軍事干渉したことは、周知の事実です。

 このイエメンのハウシー集団なるシーア派系のグループやそれを支援、指導しているイランの革命防衛隊の現地部隊と、サウジアラビアをはじめスンナ派のアラブ諸国の軍との間に、現在、戦争が行われているということは、きちんと見ておかなければなりません。つまり、サウジアラビアがなぜこのような挙に出たかというと、これは、イエメンがサウジアラビアにとってのレッドラインだったということを意味します。

 サ...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
デジタル全体主義を哲学的に考える(1)デジタル全体主義とは何か
20世紀型の全体主義とは違う現代の「デジタル全体主義」
中島隆博
トランプ・ドクトリンと米国第一主義外交(1)リヤド演説とトランプ・ドクトリン
トランプ・ドクトリンの衝撃――民主主義からの大転換へ
東秀敏
政治学講座~選挙をどう見るべきか(1)選挙の意味
選挙と政治権力…「選挙に勝つ」とはどういうことか?
曽根泰教
危機のデモクラシー…公共哲学から考える(1)ポピュリズムの台頭と社会の分断化
デモクラシーは大丈夫か…ポピュリズムの「反多元性」問題
齋藤純一
グローバル環境の変化と日本の課題(1)世界の貿易・投資の構造変化
トランプの動きを止められるのは?グローバル環境の現在地
石黒憲彦
独立と在野を支える中間団体(1)「中間団体」とは何か
なぜ中間団体が重要か…家族も企業も学校も自治会も政党も
片山杜秀

人気の講義ランキングTOP10
数学と音楽の不思議な関係(4)STEAM教育でつくる喜びを全ての人に
世界で最もクリエイティブな国は? STEAM教育が広がる理由
中島さち子
続・日本人の「所得の謎」徹底分析(2)政府債務と預金残高の背景
なぜ日本の所得水準は低いのに預金残高は大きいのか
養田功一郎
経験学習を促すリーダーシップ(2)経験から学ぶ力
米長邦雄のアンラーニング、弟子の弟子になってV字成長
松尾睦
戦前日本の「未完のファシズム」と現代(8)満州事変と世界大恐慌
「100年戦争」と考えて戦争に突入した日本の現実
片山杜秀
「集権と分権」から考える日本の核心(5)島国という地理的条件と高い森林率
各々の地でそれぞれ勝手に…森林率が高い島国・日本の特徴
片山杜秀
海底の仕組みと地球のメカニズム(1)海底の生まれるところ
地球上の火山活動の8割を占める「中央海嶺」とは何か
沖野郷子
50代からの親の介護~その課題と準備(1)突然やってくる介護の問題
「親の介護」の問題…優しさだけでは続かない
太田差惠子
弥生人の実態~研究結果が明かす生活と文化(1)弥生時代はいつ始まったのか
なぜ弥生時代の始まりが600年も改まった?定説改訂の背景
藤尾慎一郎
編集部ラジオ2025(20)納富信留先生の「アカデメイア」講義
プラトンのアカデメイアからテンミニッツ・アカデミーへ
テンミニッツ・アカデミー編集部
第2の人生を明るくする労働市場改革(1)日本の労働市場が抱える問題
シニアの雇用、正規・非正規の格差…日本の労働市場の問題
宮本弘曉