●尖閣諸島問題で中国がとった「禁輸」という戦略
大上 では、レアメタルを中心とする日本の資源戦略について、岡部徹先生から話を聞いていきたいと思います。
岡部先生は、尖閣問題が発生する以前から、中国は禁輸という戦略を取る可能性があり、その場合には非常にインパクトがあるだろうとおっしゃっていたと聞いています。まずその辺りからお話を伺えますか。
岡部 レアアースは、実を言うと、20~30年前はアメリカが大半を生産していたのですが、中国が安売りを始めるようになって、結局アメリカの鉱山は稼働しなくなりました。尖閣諸島の問題が起こる頃は、中国が全世界の90パーセントのレアアース以上を供給していました。実際、日本は中国から産出されるレアアースのほとんどを輸入しているという状況でした。
(補足:近年は、レアアースの価格が高騰したため米国の鉱山も再稼働している。)
●高性能磁石生産のために、大量の磁石用レアアースを中国から輸入した日本
岡部 その「ほとんど」というのは、少し語弊があります。レアアースと言っても、ネオジムであったり、セリウムであったり、ランタンであったりと、いろいろなレアアースがあるのです。(ネオジムを利用する)ハイテク用の最も高性能な磁石は、ほとんど日本でつくられています。日本の佐川眞人先生がその磁石(ネオジム合金磁石)を発明し、さらに日本の産業がそれをいち早く産業化して商業利用したのです。ハードディスクや高性能自動車のモーターなどには、全てレアアースの合金磁石が使われています。
大上 もうかったのですか。
岡部 いまだにもうかっていると思います。その高性能磁石は、ほぼ全てが日本でつくられていました。ですから、(中国からみれば)日本が主な輸出先だったのです。ただ、レアアースといっても、ネオジムという磁石用のレアアースだけではなく、ランタンやセリウムなどは、セラミック(などの酸化物)のような形で別の用途にも使います。例えば、ガラスを研磨したり、自動車の排ガス浄化触媒に使うなどです。こういったものは、日本以外にも供給されています。
●外交カードとしての「禁輸」を実際に使った中国
岡部 要は、日本はいわゆる磁石のレアアースの最大輸入国なのです。そういった状況で、これもまた偶然なのですが、「中国があるとき、突然レアアースの輸出を止めたら何が起こるか。そういったことはあり得るよね」という話を、日本の外務省の安全保障関係の人たちとしていたのです。なぜかと言えば、例えば、ブラジルや南アフリカの場合、突然、輸出を止めるという決断は、自由経済圏の国ですし、社会システム上できないでしょう。それができるのは、例えば、中国やロシアで、「そういうことは外交カードとして使えるよね」と、外務省の人と尖閣諸島の問題が起こる前から盛り上がっていたのが印象深い思い出です。
大上 でも、それは実際に起こると思っていたのですか。
岡部 いや、さすがにそこまでは思っていませんでしたが、「もし起こったらどうなるか」という(仮想的な話であっても、大きなインパクトがある)ことは、その外務省関係者との話で非常に盛り上がっていました。
それが、実際に尖閣諸島の問題が起こりました。発端は領土問題でしたが、外交問題になって、その後、政治問題になってきました。そして、いきなり中国が止めると言い出しました。私は、そのニュースをノルウェーに滞在中に初めて聞いたのですが、「まさかそこまで行くとは。ガセネタではないか」と一瞬思いました。ただ、「起こり得ることだ」と、頭では理解していました。
●業界によりさまざまであった禁輸への準備
大上 実際に止まったときに、日本政府としては大丈夫だ、あるいは、個別の企業が在庫を持っているとか、そういう準備はできていたのですか。
岡部 日本の磁石をつくっている会社は、それなりに準備はしていたと思います。なぜならば、仕入れているものの90パーセント以上が中国産でしたし、中国が仮に何かのことで輸出を止めたら、自分たちの商売ができなくなりますので、彼らは必ず在庫なり安全な調達先を持っていたと思います。
ただ、それは磁石産業の話で、油断していたのは、おそらくガラスの研磨産業などです。実を言うと、ガラスの研磨にもセリアというレアアースを使うのですが、これは(レアアースの中では、生産量の割に使い道が少なく)余ってしょうがない(セリウムという元素の酸化物な)のです。セリアは、磁石用のレアアースを採るときに一緒に出てくる副産物で、ともすると中国では捨てている状態です。ですから、「そんなものはいくらでもあるよ」と思っていて、まさかそんなものの輸出が止められることになるとは、おそらく、ガラスメーカーは思っていなかったでしょう。(...
(内モンゴル自治区)