●デフレ前提からインフレ前提での運用へ
第2部は、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)とは何かということです。GPIFは、日本の公的年金のうち、厚生年金と国民年金の積立金の管理・運用を行っています。共済年金は対象外となっています。
GPIFが設立されたのは、2006年です。もともと、公的年金の運用は特殊法人であった「年金福祉事業団」が、財政投融資に預託して行っていました。ところが、橋本内閣の特殊法人改革によって、年金福祉事業団は2001年に廃止され、国が年金資金の自主運用を始めることになりました。いったん2001年4月に改組された「年金資金運用基金」に資金が移され、さらに2006年4月にGPIFが設立され、年金の管理・運用を引き継いだという経緯があります。
今回、アベノミクスが始まったことで、デフレおよびディスインフレを前提とした運用から、将来的にインフレが進む経済の前提の下で運用しなければならないという大きな変化が生じました。GPIFについても、これまでは日本国債を中心に運用していましたが、よりリスクの高い運用に変えなければならないのではないかという議論が起こりました。
●基本ポートフォリオは変更されてきた
ここで見ていただく資料は、2013年6月以降、GPIFの基本ポートフォリオがどのように変化してきたかを示すものです。基本ポートフォリオとは、国内債券、国内株式、外国債券、外国株式、それぞれの資産クラスにどの程度の資金を割り当てるかを定めたもので、厚生労働省が最終的に認可します。GPIFの資産運用は、このアロケーション(割り当て)目標の達成を目指して行われているのです。例えば、2013年6月以前の基本ポートフォリオの内訳は、国内債券が67パーセント、国内株式が11パーセント、外国債券が8パーセント、外国株式が9パーセント、キャッシュが5パーセントとなっていました。
これらのアロケーションには、今も昔も「アローワンス」が認められています。例えば国内債券のアロケーションが67パーセントなら、基本ポートフォリオから8パーセントの上振れ、下振れがアローワンスとして黙認されてきたのです。59パーセントから75パーセントに収まっていればよいわけです。国内株式、外国債券、外国株式にも同様のアローワンスがあります。
●成長志向が強いポートフォリオに変更
アベノミクスが始まった後、もう少しリスク性資産を増やした方がよいのではないかということで、2013年6月にアロケーションが変更され、国内債券60パーセント、国内株式12パーセント、外国債券11パーセント、外国株式12パーセント、キャッシュ5パーセントとなりました。
この比率を達成した後も、当時、東京大学にいらっしゃった伊藤隆敏教授が座長を務められた「公的・準公的資金の運用・リスク管理等の高度化等に関する有識者会議」が設置され、GPIFをはじめとした公的資金の運用をどうすればよいかを継続的にディスカッションしてきました。こういったプロセスを経て、昨年の2014年10月末日、日本銀行が追加緩和策を発表したのと同じ日に、GPIFは新しい基本ポートフォリオを発表しました。
ここでは、かなり大胆な変更がかけられています。国内債券の保有率を、従来の60パーセントから35パーセントに引き下げ、国内株式は従来の12パーセントから25パーセントに引き上げました。外国債権は11パーセントから15パーセントへ、外国株式は12パーセントから25パーセントへ引き上げています。国内債券の比率を減らしたことも一つの大きなポイントですが、国内外の債券の比率を落として、国内外の株式比率を上げた点も特徴的で、成長志向が極めて強いポートフォリオになりました。
●金融緩和の間なら悪影響は大きくならない
繰り返しになりますが、この変更の背景にはアベノミクスがあります。将来インフレが進んだ場合、GPIFのリターン目標は、国内債券ではとても達成できないのです。ですから、リスクを取って、国内株式や海外資産への投資を増やしていこうという結論が出たのだろうと思います。
現在、黒田日銀の下で強力な金融緩和が行われており、日銀が日本国債をはじめとした資産を買い入れています。この資産買い入れが続いている間なら、GPIFが保有する日本国債を多少売却して、その利益を株や海外資産に投資しても、市場・経済への悪影響はあまり大きくならないだろうと考え、この時点で国内債券のアロケーションを下げたのだろうと推測できます。
以上、GPIFがどのような問題意識をもって今回の改革を行ったのかをご説明しました。