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マスコミは本来、与野党機能を果たすべき

マスコミと政治の距離~マスコミの使命と課題を考える

曽根泰教
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
政治学者・曽根泰教氏が、マスコミと政治の距離を中心に、マスコミの使命と課題について論じる。日本の新聞は各社それぞれの立場をとっており、その報道の基本姿勢は「客観報道」である。公的異議申し立てを前提とする中立的報道のあり方は、民主主義におけるマスコミの本来を表すものなのだ。しかし、曽根氏はこの「中立」という言葉に気をつけなければならないと指摘する。政治学者が語るマスコミの本来と課題論。
時間:14:53
収録日:2015/05/25
追加日:2015/06/29
≪全文≫

●新聞各紙の異なった位置づけ


 マスコミと政治の距離の話をいたします。

 安保法制をめぐる新聞各紙の位置を見ますと、見事なまでに位置付けができます。地方紙をこのように分けることももちろんできますが、全国規模で、東京、朝日、毎日、日経、読売、産経という位置付けは、多分正しいだろうと思います。

 細かい問題に対して若干の違いがありますが、こういうスペクトラム、つまり左から右までの連続体の中で位置付けることが可能だというのは、なかなか面白いことです。これは、安保法制だけではなく、例えば原子力発電、あるいはその再稼働についても、また、対中国との外交関係にしても、かなり各紙の位置付けは違っていると思います。

 昔は日本の新聞はどれを読んでも一緒だと言われたのですが、そのようなことはないのです。今は、読む新聞によって言っていることは相当違うということは、皆さん了解していただけると思います。


●民主主義の根本にある公的異議の申し立て


 この問題は、実は言論の自由と民主主義の問題に関係してくるのです。そこで、もう一度、教科書的に確認したいことがあります。民主主義の根本としては、政治参加も重要な要素なのですが、もう一つは公的異議の申し立てというものがあります。これが、民主主義の根本なのです。

 この公的異議の申し立てとは何かというと、例えば、反政府、政府批判をするメディア、あるいは野党が存在するということです。そのシステムを認めているか否かが、民主主義の一つの基本になります。公的異議の申し立ては、パブリック・コンテステーションといいまして、一般の言葉ではありませんが、通常は、言論の自由とか出版の自由と言われています。もう少し具体的な言葉で言えば、政府系の新聞やテレビしかないというのは問題だということです。それは、政府を批判するか否かは別として、政府系とは別の新聞社や放送局があっても、逮捕されたり出版禁止になったりしない。これが、民主主義の前提条件なのです。そういう意味でいうと、批判が許されるということです。別の言葉で言えば、言論が自由であるということは民主主義において重要なのです。


●客観報道がマスコミの基本


 では、日本ではこの批判が許されないのか、政府批判をしたら逮捕されるのかといえば、そのようなことはありません。ただ、問題は、自主規制の連鎖が起きるということです。政府、あるいは自民党から、放送法第四条などを理由にテレビ局に圧力がかかる。もちろん、圧力をかけるなどとは言わずに、「調査をする」という言い方をして、自主規制が働きます。

 これは非常に重要な問題です。政府、党の方の問題であると同時に、新聞社、テレビ局の問題でもあるわけです。過去において、よく日本では、マスコミは反権力であるべきだ、反国家であるべきだ、というような言い方をした人がいますが、それは正しくありません。つまり、マスコミのあり方というのは、反権力をずっと一貫して唱えるということでもないし、親権力、つまり権力にすり寄る、権力からの視点で報道するということでもないのです。この距離の問題をよく客観報道と言います。客観報道というのは、中立的な根拠、あるいは資料を提示するということがありますし、もう一つは、賛成、反対、両論併記という立場もあります。


●最終的には根拠をもった明確な立場をとることが重要


 このマスコミが立つポジションに関しては、先ほど政府批判と政府寄り、この二つだけではないという言い方をしましたが、よく外国の新聞社などは、選挙直前に社説で、「今回は何党支持」という言い方をします。日本の新聞ではそういう言い方をすることはありません。それはありませんけれども、一般的には中立系、一般的には客観系というように分類されるのです。

 マスコミがこういう立場をとるというのには、良さと悪さの両方があります。選挙直前に、「今回は何党に入れなさい」「大統領はこの人に入れなさい」という新聞よりも、客観的に、あるいは中立的な報道をしている方がいいと、一般的には言われます。ですが、この問題は、新聞社やテレビ局が、どれでもないんだ、つまりどれもはっきりと支持できるものはないんだ、という意味での中立なのか、あるいは、プラス、マイナス、両方ともそれぞれの根拠を調べて、賛成にはこれだけの根拠がありますよ、反対にはこれだけの根拠ありますよという形を提示する、そういう意味での中立なのかで、かなり変わってくると思います。

 そこで、今後のマスコミがとるべきポジションはどこなのか、ということが問題になります。最後は、どちらかの意見、立場を選択する方がいいのです。つまり、最後は選択しないという選択肢ではないわけです。ですから、安保法制にしても、原子力問題にしても、「こう考...
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