●2015年までの目標は達成できるだろう
安倍内閣の経済政策では、「財政健全化」がますます重要になってきています。昨年の2014年11月に安倍晋三総理が記者会見をして、今年2015年、消費税率を8パーセントから10パーセントに引き上げる予定だったところを、2017年7月まで、約1年半遅らせる決断を下しました。当然、注目されるのは、それで本当に日本の財政健全化が実現できるのかということです。そのため、安倍総理は同じ会見の中でもう一つ、2015年夏までに2020年までの財政健全化のより具体的な工程を明らかにしていくともおっしゃいました。今まさに、財政改革のプログラムについて政府内外で議論が行われているところです。
よく知られているように、安倍内閣は、発足時に民主党・菅内閣が2010年に決めた二つの目標を踏襲しました。一つは、2015年までにプライマリーバランス(基礎的財政収支)の赤字の対GDP比率を2010年の半分にする、つまり約6.6パーセントの赤字幅を3.3パーセントに下げることで、もう一つは、2020年までにプライマリーバランスを黒字にするという目標です。
今のところ、2015年度に赤字幅を半分にするという目標はほぼ達成できるだろうといわれています。安倍内閣がデフレ脱却を果たし、税収がかなり増えていることが原因です。消費税が5パーセントから8パーセントに上がったことで増えた税収と同じくらい、デフレ脱却による名目GDPの増加、企業の業績の向上による法人税の増加がありました。
●中間目標を設定する必要があるのでは
したがって、世の中の関心は、二つ目の目標が達成できるのかということにありますが、残念ながら現在の財政制度では、2020年までにプライマリーバランスの黒字化を実現するのは難しいだろうといわれています。内閣府のシミュレーションによれば、安倍内閣の成長戦略が実質2パーセント、名目3パーセントの経済成長率を実現しても、まだ9兆4000億円もの財政赤字が残ってしまいます。これをどのように削っていくかが重要な鍵になります。
一方で、実質2パーセント、名目3パーセントの高い経済成長を前提にした財政健全化計画そのものに意味がないという議論もありますが、アベノミクスの当面の目標である以上、それを前提に財政健全化計画を立てていくのは妥当な姿勢だと思います。
気をつけなくてはならないのは、報道で一人歩きしているこの数字はあくまでも機械的な計算で算出されたものだということです。具体的には、GDPが1パーセント増えたときに税収が1パーセント増える「税収の弾性値1」で計算されていますが、過去2、3年の弾性値はもっと高いですから、今後の税収はもう少し多いはずです。
一方、過去の財政支出、特に社会保障費の伸びなどから算出する歳出の伸びも、内閣府のシミュレーションではかなり高い数値になっていますが、計算は甘いといわれています。数年前、日本の社会保障費の財政負担は毎年1兆円増えると予想されていました。しかし、今年度、介護保険料を少し厳しめにしただけで、伸びは5000億に下がっています。これらの前提条件は、足元の動きを見ながら、柔軟に見方を調整していく必要があるだろうと思います。
ここから先は個人的な意見ですが、2020年まで、まだ5年あります。5年先の目標だけを見据えて、今から全てを決めていくのは難しいでしょう。そうすると、2018年あたりに中間目標を設定することが必要になってくるのではないでしょうか。2017年の4月に消費税を8パーセントから10パーセントに上げますので、その後のマクロ経済状況が気になります。個人的な印象では、今年、来年は税収が相当上振れし、先ほどお伝えした内閣府のシミュレーションより税収が増える可能性が大きいでしょう。もちろん成長率がどうなるかについては、今後の景気状況によって、いろいろな可能性が考えられます。ですから、2018年の段階で、それまでに起こり得る不確定なことをいろいろと織り込んだ上で改めてしっかりと財政計画を調整する必要があると思います。
2017年の消費増税で発生する税収の増加を除き、だいたい毎年0.5パーセントずつGDPに対する歳出の赤字幅を抑えていくと、2020年にゼロになります。2018年末から2020年まで2年ありますから、赤字幅1パーセントが2020年までの目標だといわれています。ただ、これはよくいわれるというだけで、別に決まっているわけではありません。
●機械的な歳出抑制は、反動を起こしやすい
もう一つ大きな論争となっているのは、歳出抑制目標、正確には歳出の伸びを抑える目標をつくり、何が何でも達成した方がよいのではないかということです。思いはよく分かり...