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長寿化が進む今、社会全体が教え合う21世紀型の教育を!

新しい教育ビジョン~産業革命の兵士育成とのはざまで~

小宮山宏
東京大学第28代総長/株式会社三菱総合研究所 理事長/テンミニッツTV座長
情報・テキスト
今、教育は大きな変化の時代を迎えている。近代以降に確立されてきた「小・中・高・大システム」は、いわば産業革命の兵士を育てるようなシステムだが、そうした従来型の教育にいくつものほころびが出ていることは論をまたない。少子高齢化が進む日本の将来を見据え、株式会社三菱総合研究所理事長・小宮山宏氏が語る「新しい教育」のビジョン。
時間:11:33
収録日:2015/06/08
追加日:2015/07/09
カテゴリー:
≪全文≫

●産業革命を契機に変化した教育への疑問


 教育というものをどう考えるかについてお話ししたいと思います。パッチワークのように、ここをどうする、あそこをどうする、と個別に考えても、なかなかうまくいきません。それは、もう大きな流れの変化の時代を迎えているからなのです。

 教育というものをこれまでの中で長期的に考えてみると、昔は、ごく一部の貴族社会やそういう限られた人たちが、教会付随の機関で学んだり、あるいは家庭教師を雇ったりする形で行ってきました。あるいはボローニャ大学(世界最古の総合大学の一つ)など、いくつかある古い大学に、本当に一握りの人たちが行っていたわけです。

 それが変わったのはやはり産業革命でした。約200年前に産業革命が起こり、教育もまた急激に変わっていきました。先進国においては、一般の人々が学校に行き、教育を受け、社会の発展に尽くすという形になっていきました。そして、現在のような小学校、中学校、高等学校、大学という並びに、徐々に集約されていきました。

 そうして、少しずつ教育を受けていき、22歳までであらかた大人になって、教養もつき、先端的な科学技術等の知識もついて、社会に出て働く。そして60歳まで働いて、「ご苦労さま」ということになる。そういう形になっていったのですが、考えてみると今、ここに大きな変化が出てきています。それは、22歳までに教えられる知識は、もはや人類が抱える知識の中のごく一部にすぎないということです。また、22歳で社会に出て、60歳までの38年間、ずっと会社に勤めて働いて辞めるということですが、38年続く会社はある意味で減ってきているわけです。そうすると、若い学生は、それを敏感に感じますから、「本当に今この勉強をしていていいのだろうか」という疑問も抱きます。


●これからは皆が生涯教え合う形に向かう


 一方で、教える側からいうと、今の教育は非常に細分化しています。しかも、先生たちは、自分の分野は絶対に必要な学問だと思っています。例えば、哲学の先生は哲学が絶対に必要だと思っているのです。けれど、ほとんどの若い人は、18歳で哲学の講義を聞いても面白くないわけです。

 では、これからどうなるのかというと、いま言ったような教育の対極にあるものとして、皆が生まれてから死ぬまでずっと、皆が成長し、教え、教え合うという形があり得て、大きくいうとそちらに向かっていくに違いないと、私は確信しています。


●多様な経験を持つ集団による小学校教育


 生まれて最初の教育は何かといえば、これはもう明らかで、赤ちゃんは、お母さんを見て、見よう見真似で覚えていくわけです。その後だんだんとお父さんや保育園も参加し、テレビなどを見たりしながら少しずつ成長していき、小学校に入っていくことになります。

 昔と今の違いは、そういった教育がどんどん難しくなっていることです。いま言ったようなお母さんのことからだんだんと社会のことを覚えていく過程において、昔は子どもがたくさんおり、密接な社会で3世代同居も当たり前でしたし、隣には怖くて厳格なおじさんがいたりして、地域社会というものも生きていました。ですから、小学校に行くまでに、そこでいろいろな教育を受けてきたわけです。

 今はそれが無くなり、ほとんどお母さんだけで、後は塾などで学習して、英語が少しだけしゃべることができる、そんな状態の子が小学校に入ってきます。その子たちを、22歳で教員免許を取ったばかりの若い先生たちが対応できるかというと、難しいでしょう。子どもには対応できるかもしれないけれども、お母さんなど保護者やPTAのいろいろな人たちがいろいろと言ってくる状況の中で、若い先生では対応しきれなくなるということです。ここには、やはり社会の経験が入らないといけません。多様な経験を持つ多様な集団が子どもと対応しながら成長させていくことが、おそらく小学校というものにならざるを得ません。


●大学は社会人も参加し知の創発拠点に


 では、大学はどうなるのかというと、こちらは「社会人が参加する大学」です。どういうことかというと、社長でも重役でもいいのですが、そういう人たちも含めて、社会に居る人が学生として参加するのです。学生として、例えば経済学の講義に参加します。これは絶対に面白いはずです。「なるほど、今の最先端の経済学では、こういうふうに考えるのか」というような学びがあるでしょう。自分が大きな経済社会の中で、いわば一つの「点」のようなことを実践しているわけですから、それを経済学全体の中で位置付けることは、絶対に面白いはずなのです。

 そしてまた、疑問も感じるでしょう。「先生、そうおっしゃるけれども、私はこんな経験をしている。これは一見、先生のおっしゃっていることと矛盾...
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