「改革」を望まない人間の心理
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改革はなぜ進まないのか?
「改革」を望まない人間の心理
政治と経済
曽根泰教(慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツ・アカデミー副座長)
移住、離婚、退職・退学。どれも本人にとっては「重い」決断で、決心が容易でないことは、誰しも共感するだろう。実は、政治や企業などの大きな組織の「改革」が進まないのも、これと同じ心理からきていると、政治学者・曽根泰教氏は語る。いったん動き始めた計画の中止や変更は、なぜそんなに難しいのか? 現状をご破算にするために人と組織が乗り越えなければならないハードルとは?
時間:9分23秒
収録日:2015年7月13日
追加日:2015年8月3日
カテゴリー:
≪全文≫

●介護移住が進まない本当の理由


 「変化への抵抗」、あるいは「改革はなぜ進まないのか」という問題の裏側の話をしたいと思います。よく「抵抗勢力がいるからだ」、あるいは、「岩盤規制があるからだ」と言われます。確かに、本当に頑迷固陋(ころう)な抵抗勢力、既得権を持っている人たちが反対することによって物事が動かないという一面はあるのですが、しかしながら、それよりももっと緩い形で、実は、変化を望まない人たちがいるということをわれわれは理解した方がいいという話です。

 どういうことかというと、例えばこういうことです。首都圏で介護難民、あるいは待機老人がいるという問題があり、それを解決するために、地方移転・移住を進める日本創成会議の案が出てきました。確かに、千葉、埼玉、神奈川、東京圏で、これから非常に介護需要が増えます。ところが、それに見合うだけの施設や医療などが不足する。ということで、それを踏まえて、介護施設や人材の余力がある地方へ東京圏の高齢者が移住できるようにしたらどうかというプランが出されたのです。しかしながら、私は非常に難しいと思っています。

 それはなぜかというと、コンパクトシティのときもそうでした。東京一極集中を食い止めるために東京への移住を止めるという、この種の話も、心理的にも、財政的にも、いろいろな意味でなかなか簡単ではないということです。具体的には移住、移転、転職、転校、結婚、離婚など、今ある状態がとても重いときに、そこから離脱することは容易ではありません。


●カーディーラーや政党の支持に見る「忠誠心」


 通常、インセンティブをつけることで離脱ができるようにされているのですが、そう簡単な話ではないということを、非常に異色な経済学者であるアルバート・O・ハーシュマンが本に書きました。『Exit,Voice,and Loyalty』(邦題『離脱・発言・忠誠――企業・組織・国家における衰退への反応』ミネルヴァ書房、2005年)という面白い本です。「Exit」は、出口、退出という訳をつけるときもあります。「Voice」は抗議をする声、「Loyalty」は忠誠心。この三つの概念を使って、非連続の現象をうまく説明しています。

 この本は組織論の話です。企業を辞める、労働組合から退出するといった組織からの離脱の話です。面白いのは、例えば顧客もそうであっ...

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