社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2023.09.29

なぜ「ねずみ」が実験に使われるのか?

 「マウスによる実験で◯◯の効果が証明された」「◯◯の薬は現在マウス実験での結果が待たれている」など「マウスでの実験」という話をよく聞きます。よく考えてみれば、そもそもなぜ「ねずみ」が実験に使われるのでしょうか。この点について調べてみると、なかなか興味深い話がありました。

ねずみの繁殖力は非常に高い

 ハツカネズミを改良した実験用マウスの場合、1度に6~8匹の子どもを生み、この子どもたちは1ヶ月ほどで成体になり、寿命は1年~2年とされています。たくさんの子どもを生み、成長が早く寿命が短いことが特徴です。このことから、老化の研究や集団でのデータを取るのに適しているというわけです。

 ちなみに、爆発的に数字が増えることを「ねずみ算式に増える」と表現しますが、この言葉、実は江戸初期の和算に由来しているそうです。小学館の日本大百科全書によると、初出は1627年(寛永4)に刊行された『塵劫記(じんごうき)』という和算の書。12匹(つがい6組)の雄雌がそれぞれに12匹の子どもを生み、1ヶ月後生体になった者同士がまた12匹子どもを生み、またその子どもが……と計算すると、1年で276億8257万4402匹になることが記載されています。

 実際は生物学的にはここまで一気に繁殖するというわけでもなく、食料の問題や住む場所、天敵の問題などもあるので、この通りにはいかなさそうです。しかし、日本の計算術がかなり進んでいたことは事実のようです。

飼育コストがかからない

 ねずみは人間と同じ哺乳類のなかでも小さく、狭い空間と少ない食料で多くを飼育することができ、さらには先ほど述べた繁殖力。つまり、さまざまな実験を低コストで行うことができるのです。また、ヒトに対して行うと人道的に問題になるような実験もねずみであれば行うことが可能です。

 ちなみに実験で使われるねずみにはハツカネズミを改良・繁殖させた「マウス」とドブネズミを改良・繁殖させた「ラット」がいます。マウスが40g程度なのに対して、ラットは700gを越えることもあるそうです。ラットはその大きさなどから解剖がしやすく、病理学的研究に使用されることが多いとのこと。

遺伝子改変しやすい

 実験で用いられているマウスは近親交配で作られることが多いそうです。たとえば、遺伝子がバラバラのマウスで実験を行うと、遺伝的要因により何からその変化が生じたのか、検証が不確かになってしまいますが、同じ遺伝子のマウス(近交系マウス)で実験すれば、どの部分に変化や問題が起こったのか、検証ができます。

 この点で、成長が早く繁殖力が強いということの意味もより重要になってきます。マウスは順調にいけば1年で4世代すすめることができ、近親交配を20世代以上続けると、親兄弟姉妹どの個体をとっても遺伝的にもほとんど同じになるとのこと。つまり、一つの系統の近交系マウスを作り出すのに5年程度で済むということになります。

 理化学研究所によると、人類がこのような近交系マウスを育成し始めたのは100年以上前とのこと。それから現代までに、がん、糖尿病、神経疾患などを特徴とする400種類以上の近交系がつくられ、医療技術の発展や生命現象の解明に役に立っているそうです。

<参考サイト>
・(独)理化学研究所筑波研究所バイオリソースセンター:研究用のマウスとは
http://rtcweb.rtc.riken.jp/joyo2/D0922.html
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
“社会人学習”できていますか? 『テンミニッツTV』 なら手軽に始められます。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み

なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み

何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み

なぜ「何回説明しても伝わらない」という現象は起こるのか。対人コミュニケーションにおいて誰もが経験する理解や認識の行き違いだが、私たちは同じ言語を使っているのになぜすれ違うのか。この謎について、ベストセラー『「何...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/02
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授
2

ケルト神話とは…ダーナ神族、アルスター神話、フィアナ神話

ケルト神話とは…ダーナ神族、アルスター神話、フィアナ神話

ケルト神話の基本を知る(1)ケルト地域と3つの神話群

ケルト神話とは何か。ケルトという地域は広範囲にわたっており、一般的にアイルランドを中心にした「島のケルト」と、フランスやスペインの西北部などに広がった「大陸のケルト」があるが、神話が濃厚に残っているのはアイルラ...
収録日:2022/04/12
追加日:2023/07/23
鎌田東二
京都大学名誉教授
3

「土地勘のあるところ、自分たちの武器を持っていく」

「土地勘のあるところ、自分たちの武器を持っていく」

エンタテインメントビジネスと人的資本経営(5)「チーム戦と新規ビジネス」の要点

経営は個人戦でなくチーム戦であり、経営メンバーは「人材の組み合わせ」が大事である。かつて本田宗一郎には藤沢武夫、井深大には盛田昭夫がいたからホンダもソニーも大きくなれた。また、新規ビジネスを始めるときは大事なの...
収録日:2025/05/08
追加日:2025/11/03
水野道訓
元ソニー・ミュージックエンタテインメント代表取締役CEO
4

なぜ子どもは教えられても理解できないのか?鍵はスキーマ

なぜ子どもは教えられても理解できないのか?鍵はスキーマ

学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(2)言葉を理解するプロセスとスキーマ

算数が苦手な子どもが多く、特に分数でつまずいてしまう子どもが非常に多いというのは世界的な問題になっているという。いったいどういうことなのか。そこで今回は、私たちが言語習得の鍵となる「スキーマ」という概念を取り上...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/10/06
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授
5

宇宙の理法――松下幸之助からの命題が50年後に解けた理由

宇宙の理法――松下幸之助からの命題が50年後に解けた理由

徳と仏教の人生論(1)経営者の条件と50年間悩み続けた命題

半世紀ほど前、松下幸之助に経営者の条件について尋ねた田口氏は、「運と徳」、そして「人間の把握」と「宇宙の理法」という命題を受けた。その後50年間、その本質を東洋思想の観点から探究し続けてきた。その中で後藤新平の思...
収録日:2025/05/21
追加日:2025/10/24